マキアス・レーグニッツの道
司法監察官であるマキアス・レーグニッツは、頭を抱えていた。司法の穴を掻い潜り暴れていた極悪人が共和国に逃げたという情報があり、マキアスは捕まえる為に共和国に来た。学友も捕まえる為に協力してくれる事になり、無事に捕まったのだがー。
「よし!マッキー!次はあれだ!」
「マッキー言うな!」
マキアスの隣にいるのは、クロウ・アームブラスト。
マキアスの元先輩で今は頼れる友人である。
そんなクロウは、賭けをしている人物を見かけたら、
「よっ!俺も混じっていいか?」
などと声を掛けていた。
ちなみに友人はもう一人いたのだが、
白髪の女性を見かけたら急いだように、
「済まない!すぐ戻る!」
と言い残し、何処かに行ってしまった。
女性を追いかけて行ったと知ったら、彼の恋人はめちゃくちゃ怒るのだが分かっているのだろうか。
いや、分からないか。リィンだし。
そしてもう一人の友人はというと、
リィンがいない事をいい事にブレードで賭けをしていた。
「くっ!その手で来たか!」
「くくっ…。」
目の前で薄黒く笑う人物は、ヴァン・アークライド。
クロウが声をかけて妙に馬が合うのか二人で賭けをしていた。
「あー!負けだ!オラ!持ってけ!」
「どーも。」
こんな姿をリィンが見たら、クロウに笑顔で圧を与えるだろう。
それが分かっているからリィンがいない時を狙ったのか。
さすがクロウ、汚い。
「ヤベェ。ミラねーわ。」
クロウがあり得ない事を言い始めた。
「なんだって?もう一度頼む。」
マキアスは聞き間違いである事を祈りながら、もう一度聞いた。
「だから、全財産なー。」
「くそ!聞き間違いじゃなかった!
今すぐリィンに連絡だ!」
マキアスは最近支給されたザイファを開き、リィンに連絡をしようとした。
しかし、それを黙って見ているクロウではない。
「させるか!」
「うわぁ!」
凄い勢いでザイファを奪われた。
「どんだけリィンに怯えているんだ…。」
「分かるか?」
「何が?」
「金銭を握られる恐怖が!」
何があった。
「いや〜気になるねぇ。
是非聞かせてくれよ。」
「乗らないで下さい!」
「そう固くなるなよ、マッキー。」
初対面の男に、あだ名で呼ばれた。
「マキアスです!!」
「いいじゃねーか、
マキマキの方が良かったか?」
「くっ!」
この手の奴は、いくら言っても聞かない。
マキアスは諦めた。
「いいですよ…。もう、好きに呼んで…。」
「そうか。…ありがとな。」
心の中で毒付いていたマキアスだったが、
優しそうに微笑むヴァンを見て言い過ぎたかも知れないと反省をした所で、ヴァンは呼び方を変えた。
「マキアス。」
「さっきのやり取りは、一体何だったんですか!?」
マキアスは、心の中からツッコミを入れた。
「マキアスも参加しようぜ?
勿論賭けありでなぁ!」
めちゃくちゃ悪人ヅラなんだが。
「しません。これでも司法監察官なので。」
マキアスは、ヴァンからの誘いをキッパリと断った。
「一蹴かよ…。ていうかマキアスお前、
エリートじゃねーか!」
「まだまだひよっこですけどね。」
「謙遜しているけど、充分凄いからな?」
クロウに、褒められて嬉しくなってしまう。
リィンがクロウは、人を甘やかすのが得意とか言っていたけど分かるな…。
「で、そのエリート様がこんな所にいるなんて珍しいな。」
「それはー。」
マキアスは口を滑らせそうになったが、クロウが横から割り込んで来た。
「観光でな、ワーカホリック気味なコイツを休ませたかったのさ。」
何を言っているんだ、仕事で来たのであって遊びに来たのではない。
しかし、クロウの顔を見て黙っていた方がいい事は分かった。
だからマキアスは、嘘を付いた。
「そうなんです、リフレッシュしたくて。
…ワーカホリックは言い過ぎだが。」
ヴァンは諦めた顔をした。
「…成る程。
情報はそう簡単に渡さないか。」
「悪りぃな、アンタの事は個人的に気に入っているがもう裏切る様な事はしたくない。」
「クロウ…。」
「楽しかったぜ、じゃあな。」
それだけを言うと立ち上がり、店を出ようとしたのでマキアスは慌てて追いかける事にした。
最後にヴァンに挨拶だけしようと思った。
「それでは、また。」
「また?あってくれる訳?
アンタを騙そうとしたのに。」
ヴァンが、馬鹿にした様な瞳でマキアスを見つめてきた。その瞳は何処かで見た事がある。そうだ、貴族が許せなかった頃の自分だ。あんな顔で貴族を見ていた。だからだろうか、マキアスはヴァンを放って置けなかった。
「…そうですね、騙そうとした事は許せる事ではない。」
「ならー。」
「…以前の僕ならそう答えていた。」
「はっ?」
「今なら、ハッキリ言える。
人は何度でもやり直せると。」
「貴方が、道を間違えそうになったら正しますよ。それが僕が司法監察官になった意味だと思うから。」
そうだ、確かに騙された。
だが、彼の瞳から罪悪感を感じられたのだ。だったら、彼はやり直せる。
そう心から思ったのだ。
ヴァンは、深いため息をついた。
「マジか…。お人好し過ぎだろ…。」
「そんな事ないです、これでも人を憎んでいた時期がありますし。」
「乗り越えたって事だろ?
…俺には無理だ。」
「出来ますよ、きっと。
…無責任ですいません。
でも、感じましたから。」
「ハァー。負けだよ、マキアス。
…またな。」
「ええ、また。」
そう言って、マキアスは店を出た。
店の前ではクロウが待っていてくれた。
「クロウ!待っていてくれたのか…。」
「まあ、お前ならアイツと話すと思っていたぜ。」
なんだ、お見通しか。
「それで、どうだった?」
「ああ、伝えたい事は伝えられた。」
「そりゃあ、よかった。」
ふと気になり、クロウに聞いてみる事にした。
「なあ、いつからヴァンさんが騙しているって気が付いたんだ?」
「最初から。」
マジか。
「アイツ、人を信用してないし探っていた目をしていたしな。」
「よく気が付いたな。」
「ま、テロリス時代は腹の探り合いだったし。」
そうか、クロウは周りを全部信頼する訳にはいかなかったんだ。
「そんな顔すんな、あの頃は大変だったがそのおかげでマキアスを助けられた。
なら、無駄じゃなかったって事だ。」
クロウがいなければ、自分はー。
「クロウ、ありがとう。」
「なんだよ、いきなり。」
「クロウがいなければ、喋っていた。」
「そういう事か、しっかしマキアスも
まだまだだな。」
「ああ、その通りだ。
今回は、善人だったから良かったけど悪人ならどうなっていたか、気をつけないとな。」
「善人って断定出来るのか?」
「信じたい、あの人を。」
「なら、俺も信じるか。」
「ありがとう。」
近くから、リィンの声がした。
「リィン、用事は終わったのか?」
「気配は消していたけど、撒かれた。」
「だろうな。」
「クロウ、知っているのか?」
「《斑鳩》の副長、
シズナ・レム・ミスルギ。《白銀の剣聖》
とかって呼ばれているらしいな。」
「《白銀の剣聖》…。」
「リィンの刀を折っただけある。
…色々な話があるぜ。」
いつの間に集めていたのだろうか、
そんな機会はなかった筈。
「俺だって、
ただ遊んでいた訳じゃないだぜ?」
遊んでいる様に見えて、
シズナの情報を集めていたのか。豆な男だ。
「それで、聞くか?シズナの情報を。」
「いや、やめておくよ。」
「理由は、何となく察しが付いているが
聞くぞ、どうしてだ。」
「彼女とはフェアな状態で戦いたい。
…同じ剣聖として。」
クロウは、呆れた目で見ていた。
「俺の苦労、水の泡かよ…。」
「済まない、
せっかく集めてくれたのに…。」
クロウには、申し訳ないが
彼女とは全力で戦いたいのだ。
いつもクロウには、苦労をかけるな…。
ん?遊んでいた訳じゃない?
リィンはその言葉に、嫌な予感がして聞いてみた。
「どうやって集めたんだ!
さっき遊んでいたとかって聞こえたが!」
まあ、喋ってもいいだろう。
禁じられてないし。
マキアスはそう思って、淡々と事実だけ、
述べた。
「賭けをしていたんだ。」
「何だと!?」
「マキアス!テメー!」
「そのせいで今、ミラがないらしい。」
その言葉を聞いた途端にリィンから、
黒いオーラが出始める。
「クロウ…。覚悟はいいか?」
「待て!何で鞘から刀抜いてんだよ!」
「ここだと迷惑がかかるな。」
「確か近くに、森があったぞ。」
「マキアスー!!」
クロウの叫び声が空に響くのであった。
ヴァンは、マキアスがいなくなった部屋で
マキアスが言っていた言葉を思い出していた。
『今なら、ハッキリ言える。
人は何度でもやり直せると。』
簡単に言いやがる、
自分は依頼で人を殺した事だってあるしもう戻れない所まで来ている。
『貴方が、道を間違えそうになったら正しますよ。それが僕が司法監察官になった意味だと思うから。』
なんじゃそりゃ、意味が分からん。
ヴァンはマキアスの事なんてどうでもいいと思っていたが、マキアスの言葉が頭から消えなかった。
そんなときに、怪しい奴らを見かけた。
帝国出身だろうか、髪の色が黒髪の三人組だった。
「オイ、連絡を受けているな?」
「ああ、司法監察官様を殺るチャンスだ。」
「アイツがわざと捕まってくれたチャンスを無駄にするな。」
「…。」
別に無視してもいい、マキアスとはさっき知り合ったばかりだ。
しかし、ヴァンはマキアスが酷い目に遭う未来を想像したら身体が勝手に動いていた。
「ちょっといいか?」
「なんだ?今大事な話の最中で…。」
「マキアス・レーグニッツの事で、
話がある。」
「!!」
「ここじゃあ話せない、着いて来てくれ。」
「オイ、まだか?」
ヴァンは、人がいないのを確認し
裏道まで三人組を連れて来ていた。
そろそろいいか。
「オイ、まだー。」
ヴァンは、言い終わる前に
愛用の武器で三人組の内の一人を攻撃した。
「なっー。」
「来ないのか?なら、こっちから行くぜ!」
「テメー!騙したのか!」
「…許せるか?」
「んな訳ねーだろ!?」
隠し持っていた武器でヴァンに思い切り切りかかって来たが、ヴァンはそれを軽く受け止める。
「だよなぁ。」
ヴァンは、苦笑いした。
「あぁ?何笑ってやがる!」
「世の中には、
騙した事を許す奴もいるって事だ。
…ソイツに比べてアンタ小さいな、器が。」
「テメー!馬鹿にしやがって!」
「本当に馬鹿だよな!
放っておけばいいのに、出来ないとか!
自分の性格が嫌になる!」
ヴァンは、アーツを発動し攻撃した。
「くっ!」
「あ?なんだ!痛くねぇ!」
「どこ狙っているんだ?」
罵倒が聞こえたが無視した。
三人組は、ヴァンがいない事に気が付いた。
「いねぇ!」
「一体、何処に!」
アーツは囮だった。
その隙に近づいて武器で攻撃した。
「ぐっ!」
まず一人。
「何が!…がっ!」
二人目。
「クソォォ!!」
振り返って、見えない敵を攻撃した。
「やるじゃねーか。」
たまたまヴァンに攻撃が当たった。
「クソ!何で司法監察官様を助ける!?」
「さあな。」
自分でも助ける理由が分からない、
でも傷付く姿が見たくないというだけで戦っている。…こんなに馬鹿だったか?あのマキアスとか言う男に影響されてしまったに違いない。だってあんまりに真っ直ぐに見つめて来るから。
「理由がないなら協力しようぜ?」
「メリットは?」
「今までやった事を許してやる。」
「…マキアスの許すとは全然違うな。」
「はっ?」
「テメーの言葉は全然響かないんだよ。
…この話はなしだ。」
「なら、死ね!」
ヴァンは、コインを弾き
相手に当ててその隙に攻撃した。
「く…そ…。」
「アイツは、こんな奴らの道も正すつもりか?…大変な道だな。」
ヴァンはそう呟き、警察に連絡した。警察が来ているのを確認してから速足でその場を立ち去った。
「なんだってこんな面倒くさい事を…。」
そうぼやいていたら、マキアスが目の前にいた。
「信じて良かった。」
「何の事だよ?」
「そういう事にしときます。
ヴァンさん、また会いましょう。」
「また会おうぜ、マキアス。」
二人はそう言って別れ、それぞれの道に向かって歩み始めた。
END
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