モルガンお手製〜ドキドキ☆すごろく〜
アルトリア・キャスターは、その日嬉しそうに藤丸の部屋に大きな箱を持ってきた。
「マスター!一緒にやりましょう!」
「何これ?」
「変なものは、貰うなって
習わなかった〜?」
「ああ、居たんですか、オベロン。」
相変わらずオベロンの扱いが雑なアルトリアであった。
藤丸はアルトリアが持って来た箱を見ると、文字が書いてある事に気が付いた。
『モルガンお手製〜ドキドキ☆すごろく〜』
「…おい、誰から貰ったんだ。」
「何ですか?オベロン。怖い顔をして」
「明らかに怪しいだろ!それ!」
「え?そんな事ないですよ?
バーヴァン・シーに貰いましたから。
最初は断ろうとしたんですが、
あまりに必死で…、
なんか、泣きそうでしたし。」
「やっぱり、怪しいじゃねーか!!」
珍しく、ツッコミに回るオベロン。
そんな時、箱が光り藤丸達が目を細めたら謎の場所にいた。
「はっ?」
オベロンが素っ頓狂な声を出していると、何処か違和感を感じる空にウィンドウが映し出され、バーヴァン・シーが楽しげに笑っていた。
『あははっ!!騙されるとかダッセェ!!』
「バーヴァン・シー!」
『よく聞け!これは私とお母様が協力して作ったすごろく系箱庭型のゲームだ!
テメェが触ったら、発動する仕組みにしたんだよ!…お母様が!』
そう言って、勢いよく藤丸を指さす。
バーヴァン・シーの言葉に、藤丸達は辺りを見渡すと確かにルーレットがあるし、立っている場所には何か書いてある。
バーヴァン・シーは、そんな藤丸達の様子を見ている間も、ずっと上機嫌だった。
「なんか、テンション高くない?」
『ハ、ハァー?別にお母様と一緒に物作り出来て嬉しいとか思ってねーから!!…壊したら、殺すぞ。』
ウィンドウ越しでも、分かるぐらい殺気の籠った声だった。
「よっぽど嬉しかったんですね…。」
『テメェ!生暖かい目で見るんじゃねぇ!」
そんな二人の間に割り込む様に別のウィンドウが入り込み、モルガンが映し出された。
『バーヴァン・シー、そのくらいで。
ルールの説明を。』
バーヴァン・シーは、途端に焦り始めた。
『ご、ごめんなさい!お母様!
…ルールは、簡単!そこにあるルーレットをこっちで決めた順番通りに回し、マスに沿って進んで貰う。止まった場所に書いてある事をやるだけだ!簡単だろ!』
藤丸は、疑問を感じて聞いてみた。
「そっちで順番を決めるのは、いいけどさ。…ゴールなくない?」
『当たり前だろ?ゴールを決めるのは、お母様なんだから。』
なんということだろうか。
それでは、モルガンを満足させるまで終われないという事ではないか。
『何を驚いているのです?我が夫。
帰りたければ、満足させてみせなさい。
最初はお前だ、クソ虫。』
そう言って指名されたのは、
オベロンだった。
「はぁー。めんどくさ…。でも、満足させないと帰れないしな、本気で行かせて貰う!」
珍しく本音で語るオベロン。
よっぽど面倒臭いらしい。
ルーレットをオベロンが回す。
止まった数は1。
「オベロン、マジ?」
「オベロン…。」
「…。」
オベロンは、同情的な目を無視してマス目に沿って歩いた。書いてあったのはー。
『クソ虫はクソ虫なので、一回休み。』
「ふざけんな!」
「…モルガンのオベロン嫌いは、徹底しているね。」
「仕方ない事かと。」
やってやれるか、とオベロンは動こうとしたが動けずにへばり込んだ。
『言ってなかったが、ここでは私のルールが絶対だ。逆えるとは思わないように。』
「ええ!?」
「流石は、天才魔術師ですね…。」
『さあ次は、お前だ。楽園の妖精。』
アルトリアは溜息をつき、ルーレットを回した。数は7。
「運、いいね…。オベロンとは大違いだ。」
「オベロンとは違いますから。
…もっと褒めてくれて、いいんですよ?」
「…君たち、凄いね。本人の前で嫌味を言うとは!!」
「褒めているよ?」
「褒めていますが?」
「…こういう時ばかり、
息が合いやがって…。」
いつまでも進まないアルトリアに痺れを切らしたのか、バーヴァン・シーが罵倒して来た。
『オイ!いつまでそうしてんだ?間抜け!クズ!とっととルーレット回しやがれ!!』
『ありがとう、バーヴァン・シー。
貴方が居てくれて良かった。
お陰で話が進む。』
『お、お母様…。そんな…。
居てくれて良かったなんて…。』
顔を赤らめて、モジモジし始める
バーヴァン・シー。
そんなバーヴァン・シーをオベロンは、
冷たい目で見ていた。
「…何?この茶番。」
『黙れ、クソ虫。…さっさと進むがいい、楽園の妖精』
アルトリアは、言われた通りにマス目に沿って進んだ。書いてあったのはー。
『アルトリア・キャスターは、一生独身。
城で一人で暮らす。』
「ちょっと!?」
すると、アルトリアの足元から城が生えて来た。どう見ても、キャメロットである。
「どうなってんの!?」
『レプリカですが、魔術で再現しました。
…中々の物でしょう?褒めなさい。
我が夫。』
ウィンドウに映し出されているモルガンは、心なしか自慢気だった。
「…凄いね。」
レベルが違いすぎて、付いていけない。
『そうでしょう。もっと褒めなさい、我が夫よ。』
このままじゃ終わらないと判断した藤丸は、モルガンの話を中断して次に進める事を提案した。
『むっ。確かにそうでした。褒めて貰うのは、後にして貰うとして、我が夫よ。ルーレットを回しなさい。』
褒める事は、確定なのかと藤丸が思いながらルーレットを回した。出た数字は5に見せかけて、凄い勢いで戻って行き3に止まった。
「今、ルーレットが凄い勢いで戻ったんだけど!?」
「…不正じゃないの?」
「あり、なのですか?」
画面に写っているモルガンは、当然の事の様に言った。
『私がルールだが。何か問題でも?』
ソウデスネ。
藤丸は、諦めた様にマス目に沿って歩いた。そこに書かれていたのはー。
『我が夫は、モルガンを抱きしめる事。』
「はい?」
『何を驚いているのです。
…そちらに行きます。』
そう言うと、モルガンが映し出されていたウィンドウが消えて、気が付いたら藤丸の側にはモルガンがいた。
「いつの間に!?」
「今です。魔術で、移動しただけですし。」
モルガンは、藤丸に近付いて命令する。
「さあ、抱きしめなさい。」
「いきなり、言われても…。」
「しょうがないですね。」
そう言って、モルガンは藤丸に抱きついて来た。
「!!??」
「何を驚いているのですか?我が夫よ。近い内にこういう関係になるのですから、驚く必要はありません。」
藤丸は、それどころではなかった。モルガンの胸が、藤丸の顔に押し付けられている状態の為、胸の柔らかさをダイレクトに感じて普通の少年である藤丸は、ドキドキしていた。
「おや?我が夫。何をそんなに照れているのですか?」
「照れるに決まってんじゃん!
…胸とかモロ当たっているし。」
藤丸の最後の言葉を聞き取ってか、モルガンは更に強く抱きしめる。
「ふふっ。我が夫は可愛いですね。」
「うぅ…。」
そんな二人を黒いオーラで見つめる者が一人。アルトリアである。
「…マスターも、あんなに照れちゃって…。ふふっ…。どうしたら、モルガンを丸焼きに出来るでしょうか?」
「わ〜、アルトリアって過激〜!!」
その後も、アルトリアとオベロンの扱いは悪かった。
『羽根を失ったクソ虫は、二回休み。
なんなら、一生来んな。』
『食べすぎて、一回休み。』
『クソ虫は、燃えろ。一回休み』
『昼寝し過ぎて、一回休み』
流石に露骨過ぎたか、二人はキレた。
「あのさ〜…、もう俺の全てを否定してんだろう。これ」
「ここまでぐうたらじゃありません!
…ない、ですよね?」
そんな二人を無視して藤丸にルーレットを回す様に、指示を飛ばした。藤丸は、何度もモルガンの無理難題に応えており精神は疲れていたので諦めた様にルーレットを回した。
「…アイツの顔、周回から戻って来たサーヴァントみたいだな。」
「…マスター…。」
アルトリアは、そんな藤丸を痛まし気に見つめた。
藤丸が、死んだ目でルーレットを回す。
出た数字は5。
マス目に沿って歩いた。書いてあったのはー
『我が夫は、モルガンにキスをすること。』
「な..んだと…。」
「!!」
「あ、アルトリアが石になった。」
藤丸は、逃げようとしたがモルガンに捕まった。
「何故、逃げるのです。」
「いや、逃げるよ!キスは、流石に…!!」
「問題ありません。将来は、全てを捧げるのですから。」
「お助けー!!」
藤丸の叫び声が響いた時、モルガンに向かって魔術の塊が飛来して来た。
「いきなり、何をするのだ。楽園の妖精。」
「何をですか、ですって?
もう我慢の限界です!」
「やろうというのか。
いいだろう、受けて立とう。」
バチバチと火花を散らす二人。
そんな二人を、バーヴァン・シーは、焦った顔で見ていた。…隣のヤツは別だったが。
「いいぞ〜!アルトリア!やっちまえ!
…全部、壊せ。」
「…オベロン。よっぽど鬱憤が溜まっていたんだな。」
そんな外野の声を無視して、戦闘を続けているアルトリアとモルガン。
「甘い。」
「くっ!」
モルガンが、放った魔術がアルトリアに直撃した。
『流石!お母様!!」
「外野が、うっせーな。」
アルトリアは、直ぐに立ち上がって高威力の魔術の塊をモルガンにぶつけた。
「くっ!なかなかやるではないか!」
「そっちこそ!!」
「…ねぇ、オベロン。」
「なんだよ?」
「あの二人、さっきまで本気で殺し合っていたよね?…なんか笑いながら戦っているんだけど。」
「…根っこは同じ、脳筋って事だろ。」
「…それ二人に言わない方がいいよ。」
二人がくだらない話をしている間に、決着が付きそうだった。モルガンが宝具を放ち、アルトリアが宝具でそれを防ごうとする。
しかしー。
バキ。
「あ。」
「オイ、なんだよ?「あっ。」て…。」
その途端に藤丸達がいた場所が、崩れ始める。
「え!?」
「どうやら、暴れ過ぎたようです。」
「…大丈夫かな?元に帰れる?」
「大丈夫です。
私が元の場所に返しましょう。」
そう言ってモルガンが何かを唱えるとー。
藤丸達は、元いた藤丸の部屋にいた。
足元を見ると、壊れたモルガンお手製のゲームがあった。
「…帰って来れたね。」
「大変でしたが…、楽しかったですね!またやりたいですね!!」
「「そんな訳あるか!!」」
アルトリアのあり得ないセリフに、藤丸とオベロンは同時にツッコんだ。
数日後、部屋の掃除をしていた藤丸を訪れた者がいた。
アルトリアである。
「どうしたの?」
「マスター。」
「何…?なんか顔が怖いよ?」
「私を抱きしめなさい。」
「はい?」
藤丸は、言っている事が分からず素っ頓狂な声を出したが、そんな反応をアルトリアは不満気に見つめた。
「モルガンには、抱きついたのに?」
「い、いや!あれは事故みたいな物で…。」
「その割には、嬉しそうでしたね。」
「それは!」
アルトリアは、藤丸にどんどん距離を詰めていった。
「さあ、モルガンに出来たなら私にも出来るでしょう。さぁ、さぁ!」
アルトリアはその日、藤丸が抱きしめてくれるまで藤丸を離してくれなかった。
END
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