人生2周目〜ツイステの世界でやり直し〜(まとめ2)

※ツイステ2次創作の第1章の部分を加筆、修正して纏めたものです。

第1章〜真紅の暴君その1〜

懐かしい映像を見ていた。
トランプ兵が薔薇を赤く塗る夢。
これはディズニーの映像だ、
確か題名はー。  
「ツナ缶〜〜〜!!」
グリムの寝言で目覚めた。
どんな夢だ。
それにしてもさっきの夢…、というか映像。
昔見たディズニー映画の内容だったな。
グレート・セブンもそうだけどドワーフ鉱山もディズニー映画を思い出す感じだった。
それにしては不思議な感じだけど。
グレート・セブンは、恐らく歴代の
ヴィランズだ、そんな存在が拝まれている。
グレート・セブンの話や寮の傾向をレオナ
さんに聞いたが、やっぱり歴代のヴィランズの傾向に当てはまる。ただグレート・セブンの伝承は俺が知っているヴィランズとは違うか気がする。なんかプラスに捉えられていたし。そんな事を考えていたら、扉が叩く音がした。
「なんだあ?お化けのヤツらか?
諦めわりーんだゾ。」
グリムは寝ぼけた顔で言った。
「無視しようか。」
「いいのか?」
「こんな夜中に来るって事は絶対ー。」
ロクな事では無いと言いかけたが、
激しくノックを連打されて掻き消された。
「…アレ、開けるまでノックし続けるつもりなんだゾ。」
参った、開けるか。
開けると、何故かエースがいた。
首輪付きで。
「…えっと、何かのプレイ?」
「そんな訳あるか!!
…とにかくハーツラビュルには戻んねぇ。
ここの寮生になるわ、よろしく。」
そう言うと、エースはオンボロ寮に入りこんで来た。勿論グリムは納得して無いので、
理由を聞く。
「待つんだゾ!!
どうしてそうなるんだゾ!」
「後、寮ってそう簡単に変えられる物
なの?」
変えられ無いイメージがある。
あの鏡が「帰る場所が〜」みたいな事言っていた時、学園長は「あり得ない」って言っていたし、鏡の言葉は絶対だって信じている感じがある。レオナさんの話だと病みの鏡…じゃない。闇の鏡で寮を決めているらしいから、鏡の言葉が覆らない限り、寮とか簡単に変えられ無いって思うんだけど。
「…聞いてないな。」
気が付いたら、もう上がっているし。
エースは、談話室に入った途端に驚いた
顔をした。
「うわっ!ボロっ!!」
失礼だな、勝手に上がり込んで置きながら。
「いい所だよ、寝れるし。」
「基準そこかよ!!」
そうだよ、屋根と布団さえあれば基本
OKなタイプだよ。俺は。それよりもー。
「それで?何したの?」
チラリと首輪を見る。
エースが拗ねた様に言った。
「オレが悪いの前提かよ…。」
そりゃあ、グリムを煽って石像黒焦げにした実績があるし…。それにー。
「首輪つけられるぐらいだし、
よっぽどじゃない?」
エースは、小さく呟いた。
「…タルト食った。」
今、なんと?
エースは、ヤケクソ気味に叫んだ。
「だから!タルト食ったんだよ!」
そんなバカな。
よっぽど食ったんじゃー。
俺がよっぽど食ったんだろと言う顔をして
いたのかそれを察してエースは言った。
「…一切れ。」
なんだって。
エースは俺の方を不満気に見ながら
言ってきた。
「なんか沢山食ったんだろって顔してるからもう一度言っておくぞ、一切れしか食って
ねーよ!」
治安最悪とか思っていたけど、
ここまでとは…。世紀末かな?
エースは不機嫌そうに首に付いた物を
指差してきた。
「そんで、寮長に罰として
つけられたって訳。」
寮長って確かー。
「その寮で一番偉い人だよね?」
レオナさんも寮長だってラギーさんが話してくれた。エースは頷くとハーツラビュル寮のトップの名前を教えてくれた。
「…そ、リドル・ローズハート。
ハーツラビュル寮のトップだよ。」
「へー。」
「自分で聞いといて、なに?その反応…。」
いや、凄い人だって聞いてもピンと来ないし、俺にとってはー。
「よくわからない人だし。」
でも、ローズハートって聞いた気がする…。
どこだっけ?記憶を遡っていたら思い出した。あの赤髪の子か。それにしても…。
エースの首に付けられたのが気になり、
聞いてみる。
「それ外せないの?」
「無理、寮長のユニーク魔法は強力だし。」
「ユニット魔法?」
「ユニークな!一緒になってどうする!!」
「それもそうだね、ユニークって事は
その人固有のって感じ?」
レオナさん達は、ユニーク魔法については教えてくれなかったな。…俺を警戒してからは探る様な感じで情報提供していたし。
ユニーク魔法について教えなかったのは、
俺が知ると厄介と判断したからか?
ならレオナさん達もユニーク魔法を持って
いる?そんなことを考えていたがエースの
言葉で、現実に引き戻された。
「まぁな…寮長のは特に強力で魔法を一定
時間封じる事が出来る。」
なんだ、そのチート能力。
恐らくこの世界の住人は魔法に頼り切って
いるからローズハートさんのユニーク魔法を
かけられてたら何にも出来ないじゃないか。つまりー。
「今のエースは、無力なんだね。」
エースが悔しそうな顔をする。
グリムは、ジト目で俺を見つめてきた。
「…ユウって容赦ないんだゾ。」
「そうかな?」
まぁ現状は分かった、しかし何故オンボロ寮に来たか分からない。謝ればいい話だ。
「謝ればいい話じゃないの?土下座でも
何でもしてさ。」
エースは、その発言が気に食わなかった
らしい。イライラした様子を隠さずに
言った。
「…プライドとかない訳?」
あ、蓮にも言われたセリフだ。
「それで首輪外れるなら良いんじゃない?」
そう言った途端にエースは、冷たい目を
こっちに向けてきた。
「…やっぱテメーとは価値観が
合わねーわ。」
だろうな。
「まぁ、価値観云々は置いといて誠意を見せるのは必要だと思う。だから本当に心から反省してますって事を見せれば外してくれるんじゃないの?」
「…。」
嫌そうな顔だな…。
「プライドと、魔法使えないのどっちが嫌?」
エースは、数分悩んだ後小さく呟いた。
「…魔法。」
「そ、なら謝ろう、頑張って。」
話は終わったと思い背を向けたが、
小さくエースが言ってきた。
「…協力しろ。」 
「えっ。」
なんて言った?言われたセリフが
衝撃過ぎてエースの方を振り向いた。
「…俺の事、嫌いなんじゃなかったの?」
嫌いな癖にオンボロ寮に来るし、よく分からないな。エースは、俺の目を真っ直ぐに見ながら早口で言った。
「嫌いだよ!大っ嫌いだ!けどな!
アンタは、利用価値がある!だから今回も
利用させてもらう!」
成る程、それなら納得だ。
寮に来たのも泊まる場所が欲しいから。
今回、協力を頼んだのも1人だとプライドが
邪魔して上手く行かない可能性があるって
所か、治安維持として頼まれているのも
あるし、協力を断る理由も無いな。
「分かった、治安維持を頼まれている事も
あるし、協力するよ。」
「…じゃあ頼むわ。」
ん?なんで、エースは後悔している様な顔をしているんだろう?当たり前の事を言った
だけだ。俺に利用価値があるから利用する。
普通なのに、なんでー。
聞こうかと考え、口を開けかけた。
「あのさー。」
だが、エースは俺の方を見ない様にしながら
頼んできた。
「とりあえず、寝る場所貸してくんない?」
話を遮られた気もするが、気のせいだろう。
「しょうがない、ベッド貸してあげる。」
「オメーは?」
「俺?ここで寝るよ。」
そう言って床で寝ようとした。
そう言った途端にエースは、
こっちを見てきた。
「ハッ?」
「床って意外と快適ー。」
床で本格的に寝る準備をし始めたら、
エースは焦った様な顔をしてきた。
「そこまで鬼じゃねーよ!分かった!
俺が床で寝る!!」
そんなエースを見ながら、グリムは
呆れた様に言った。
「…ユウが関わるとエースってオカンに
なるんだゾ…。」
そんな事は…あるな。
「お母さん…。」
「誰が母さんじゃい!!」
エースのキャラが崩壊している、
させてんの俺のせいだけど。

また扉が連打される音がして目覚めた。
グリムは耳を押さえながら、言ってきた。
「なんか凄い音がするんだゾ!」
エースもあまりの煩さに起きてきたようだ。
「つーか、うるさ!音!!」
「エースもあんな感じだったよ。」
俺がそう言った途端にエースは黙って
しまった。
「…。」

まぁ今更客人が増えても同じ事か、
そう思って玄関の扉を開けるとー。
客人はデュースだった。
デュースは、誰かを探している様だった。
相手を見つけた様で、エースに話しかけて
いた。
「やっぱり、ここにいたか。」
朝だし、あいさつはしないとな。
そう思ってデュースにあいさつをした。
「デュース、おはよう。」
デュースもあいさつを返してくれたが
用事を思い出したのかエースに向かって
問い掛けていた。
「ユウ、おはよう。…じゃなくて!
エースお前、寮長のタルト盗み喰いして首輪を嵌められたらしいな?」
うん?盗み喰い?聞いていた話とは違うな。
「デュース、エースってタルト盗み喰いしたの?聞いた話だと、タルト一切れ食べて罰としてみたいな話だったけど…。」
エースが口笛を吹いている。
つまりー。デュースは、キッパリと言った。
「ユウ、騙されたな。
エースは寮長のタルトを盗み喰いしたんだ。」
盗み食いと自由に食べていいのじゃ話が
違ってくる。盗み食いならー。
「うん、首輪つけられても仕方ないね。」
俺がそう判決を下した際にエースは、味方じゃ無いのかよという顔をしていた。エースは盗み食いの深刻さを理解してないし、説明してやるか。
「俺は、タルトがどれぐらいあったか分からないしどんな事情かも分からない。けどそのタルトは、もしかしたらローズハートさんは凄い楽しみで最初の一口は自分が食べたかったとかあるだろうし、断りもいれずに食べたら泥棒と一緒だよ。」
デュースは、俺の意見に同意してくれた。
「ユウの言う通りだな。」 
エースは、罰の悪そうな顔をしていた。
「うっせ!」
その後、エースはデュースにさり気なさげに
聞いていた。
「…ところで、寮長、まだ怒っていた?」
デュースは、様子を思い出しているのか数秒
あけてから返事をした。
「そうでもない。すこしイライラしている様子で起床時間を守れなかった奴が…3人ほど
お前と同じ目にあってたぐらいだ。」
…それは機嫌がめちゃくちゃ悪いって
事では?
「…エース、早く謝らないと。
犠牲者が他に出ない為にもにね。」
エースは、皮肉たっぷり気に言ってきた。
「…やっぱ性格最悪だわ、お前。」
そんなに褒めないで。照れちゃう。
「ありがとう。」
どうやら違ったらしく、エースはそんな俺の
態度に突っ込んできた。
「だから!褒めてねーよ!!」

グレート・セブンの石像の前を通っている
グリムは調子に乗っていた。
「おうおう、どけどけ〜い。」
と言った王様の様な事を言ったり、
「オレ様のお通りなんだゾ!」
と言った自分を主張する事を言ったり。
とにかく偉そうだった。
…トラブルにならない様に見ておかない
とな。するとー。グリムを馬鹿にする声が
聞こえてきた。
「はぁ〜?テメェみてぇなのが?
笑えるな!!」
やっぱりなったか。
馬鹿にされたのが気に食わないグリムは、
暴れ始めようとしていた。そんなグリムを
持ち上げて落ち着かせる。
「グリム、落ち着いて。」
「落ちつけるか〜!!
目にモノ見せてやるんだゾ!!!」
そう言ってグリムは歯をカチカチ鳴らし始めた。それを見た相手は嬉しそうにしていた。
「お!!やるかぁ!!」
…はぁ、このままじゃあ収まらないな。
しょうがない。相手の目を覚まさせて
やるか。
「…カッコ悪いですよ、八つ当たりは。」
「なっ!?」
…やっぱり図星か。顔色がさっきと比べて格段に悪くなった。情報も、証拠も充分あるし、真実を突きつけよう。
「あなた、ハーツラビュル生でしょう?」
途端にハーツラビュル生だと思われる生徒は焦り始める。
「なんで、そう言えるんだよ!!」
ハーツラビュル生と思われる生徒の服装を
チラリと見ながら言った。
「服の色です。
寮によって服の色が違って、ハーツラビュル生は赤だ。…誤魔化したいなら服の色を隠すべきでしたね。まぁ隠した所であなたが
ハーツラビュル生である事は誤魔化せませんが。」
ハーツラビュル生だと思われる生徒は焦った顔を隠そうともせずに、食ってかかる様に
聞いてきた。
「なんでだよ!!」
俺は首の辺りを軽く叩き説明した。
「…だって、誤魔化せないでしょう?
その寮長につけられた物は。」
ハーツラビュル生だと思われる生徒は首輪を無意識のうちに手で隠しながら言ってきた。
「ッ!!オレが…寮長につけられたっていう
証拠は!!」 
…やっぱり彼はハーツラビュル生だ。
だって朝、デュースが言っていたじゃないか。それを相手に突きつけないとな。
「ああ、証人ならいますよ。
ねぇ?デュース。」
デュースは、いきなり呼ばれた事に驚いていた様だが、エースは何となく分かっていた様
だった。
「今日の朝さ、起床時間を守れなかった奴が
同じ目にあったって言っていたよね?」
デュースは戸惑いながら頷いた。
「あ、ああ。」
「彼は被害者?」
デュースは、ハーツラビュル生の顔を
よく見て頷いた。
「ああ、間違いない。
…彼は何度も寮長に謝っていたから
印象に残っている。」
相手の目を真っ直ぐに見ながら言い放った。
「証拠なら、充分でしょう?
…あなたは、寮長にやられた事に対する
腹いせにグリムに突っ掛ってきたんだ。
グリムなら勝てると見込んだ上で。」
そう言い放った途端に一気に狼狽し始める。
…やっぱりな。
「な…なに…言ってんだよ?
そんなはず…。」
そんなハーツラビュル生に対して畳み込む様に話す。
「グリムは、見た目も小さくて魔法もそんなに使えない。つまり、魔法が使えないあなたでも勝てる可能性があるって事です。
そんな事無いって言うなら、同じハーツラビュル生を挑発してみてはどうですか?」
「おい!」 
デュースは焦っていたが、エースは
黙っていた。そんなエースに対してデュースはどうにかする様に同意を求めていた。
「エース!君も何か…!!」
だがエースは俺の方をしっかりと見つめながら、冷静にデュースに言った。
「…アイツは、あのハーツラビュル生が
オレらを煽ってこないって確信して
行動してる。」
そうエースが言った途端にデュースは
驚いた顔をした。
「えっ?」
うん、エースの言う通りだ。
目の前にいるハーツラビュル生はきっとー。
「…。」
そう思ってハーツラビュル生を見たが、
拳を握りしめるだけで何もしてこない。
「出来ませんよね?こっちは、魔法が使える者がいるんですから。そしてハーツラビュル生同士で戦ったなんて寮長に知られたらまた罪が重くなる可能性がある。…だからあなたは、ハーツラビュル生じゃなくて、力が弱いグリムをターゲットにした。ハーツラビュル寮の精神は、「厳格」でしたね。あなたは、厳格どころか真逆の行為をしている。こんな事寮長が知ったら、どうなるんでしょうね?」
そう言った途端にハーツラビュル生は、
土下座する勢いで懇願してきた。
「ッッ!!頼む!!今回の事は!!」
…ここまでとは思わなかった。
せっかくだし、なんかお願いしてみるか。
「言いませんよ、その代わりー。」

ハーツラビュル寮に向かっている途中、
全員が黙っていた。
「…。」
「何か言いたげな顔だね?」
「いや…、エゲツないと言うか…。」
デュースが本気で引いている。
しかし、いつもと同じように返した。
「ありがとう。」
「褒めてない!!」

寮長には今回のいざこざを絶対に話さない
事を約束し、ハーツラビュル生に
ハーツラビュルのルールを教えて貰う事に
した。ハーツラビュル生にルールを教えてと
言った際にハーツラビュル生はずっと文句を
言っていた。
「…なんだって、オレが…。」
「怨むなら、過去の自分の浅はかな行動を
怨むんですね。」
エースが嫌らしいそうな顔でハーツラビュル生を見ていた。
「うっわ、きっつ〜。
ま、事実だけどな!」
グリムは、俺の言葉に引いたのかゲンナリと
した顔をしていた。
「ユウって、ここの学生一悪人って思う時が
あるんだゾ…。」
失礼な、そんな事はない。
「ないよね?」 
だが、デュースは悪気もなくハッキリと
言い切った。
「いや?あるんじゃないか。
今のユウは、凄い悪人面していた。」
そんな悪人面していたつもりないけど、
正直なデュースに言われるってことは
よっぽどなんだろうな、俺。
「…。それで、あなたの名前は?」
気を取り直して、ハーツラビュル生に
名前を聞いた。ハーツラビュル生は渋々と
言った様に名前を教えてくれた。
「ハーツラビュル生1年の、
ペリー・フィニアス。
…後はユニーク魔法が使える。」
「マジで!?」
ユニーク魔法を使えると言った途端のエースの驚き様は凄まじかった。
「そんなにすごい事なの?」
その人固有しか知らないから、ユニーク魔法がどんだけ凄いとか分からない。エースは
ユニーク魔法について少しだけ話して
くれた。
「…1年でって言うのは聞いた事ない
つーか。」
ペリーは小さく呟いた。
「…隠していたし。」
なんだって?
「えっ?ごめん。聞こえー。」
ほぼヤケクソ気味に叫びながら、
ペリーは言った。
「だから!隠していたんだよ!
入学する前から持っていたけど、
バレると面倒だから!!」
隠していたのには、理由がある訳か。
「で、そのユニーク魔法は?」
「ぐっ!」
グリムがペリーに同情する様な顔をしていた。
「容赦ないんだゾ…。」
そんなグリムに続く様にデュースは
ペリーをフォローする様なことを言ってきた。
「本人が隠したいんだし、
無理して聞き出さなくても…。」
2人とも優しいなぁ。…俺はそんなに甘くないけど。この学園って俺に敵意持っているヤツ多いし、今は噂のおかげで絡まれないけどそれがおさまったらまた絡まれるだろうし。
その為には相手の力は知っていた方が
いいって思うな。
「まぁ、そうかも知れないけど。
ユニーク魔法持っているって分かった以上、
こっちにキバ向けて来るかも知んないし、
知っていれば対策は立てられるよね?」
ペリーは、こっちをジト目で見ながら
言ってきた。
「…アンタ、性格悪いって
よく言われねーか?」
また褒められた。照れるな。
「ありがとう。」
どうやら違ったらしい、ペリーには怒られて
しまった。
「褒めてねーよ!!なんなんだ!!
コイツは!!」
エースは、呆れた様に俺を見た。
「コイツは、こう言う性格だから諦めて、
言った方が早いぞ。」
エース、失礼じゃない?それはともかく、
ずっとペリーだと面倒くさいし、
とりあえずPって呼ぶか。
「それじゃあ、教えてくれるP?」
Pが口をヒクヒクさせながら、聞いてきた。
「…おい、待て。
なんだその名前は。」
「略した。」
Pが全力で突っ込んできた。
…俺の周りツッコミ担当多いな。
「略し過ぎだろ!!
…俺の事はペリーと呼んでくれ。」
ペリー…、やっぱり面倒臭いな。ここはー。
「分かった。…ピーちゃん。」
「呼ぶ気ねーだろ!?」
ピーちゃんは何かを諦めたように、身の上を
話し始めた。
「…オレは元々スパイ一家の出身なんだよ。」
その割にはー。
デュースが俺の気持ちを代弁してくれた。
「感情を、制御出来てなかった気が
するが。」
グリムはそんなデュースを戒めて言った。
「オイ!言っていい事と悪い事が
あるんだゾ!!」
…どっちもどっちだって思う。
だって、どっちの言葉もピーちゃんに
刺さっているからね。俺もデュースと同じこと思っていたけど、言うつもりなかったし…。2人とも正直すぎ。
ピーちゃんは、心のダメージが抜け切って
無い状態で言った。
「うっ!しょうがねーじゃん!!
ユニーク魔法使えば完璧に溶け込めるけど!
使えない時はモブAだし!!
あんなめちゃくちゃな寮長だって
思わなかったし!!」
溶け込める?つまりー。
「潜り込むのが得意なユニーク魔法だと。」
ピーちゃんは、簡単にユニーク魔法を話して
くれた。
「…ま、そんな感じ。俺の『二重生活』は相手に違和感なくその場に溶け込む事が出来る。」
もっと話すの渋るって考えていたんだけど。意外と簡単に話してくれるんだな。脅しているし、話すしかないけどそれにしても簡単に話しすぎじゃない?
「例えば、オクタヴィネル寮に忍びこんだとする、勿論服はオクタヴィネルの服だ。周りに違和感なくオクタヴィネル生だと思わせる事って出来ると思うか?」
ピーちゃんの問いに対してデュースは、無理だと答えた。
「難しいだろ、怪しい奴がいるって事で
終わりだ。」
だが、ピーちゃんは自信あり気に語った。
「それが出来るんだな!
オレのユニーク魔法なら!!」
…さっきも思ったけど、
ピーちゃん、スパイ一家なんだよね?
にしては、情報漏らし過ぎじゃない?
だが、ピーちゃんの話に全員が段々と興味を
失っていったのか反応は薄かった。
「ふーん。」
「そうなのか。」
そんな面々に対して、ピーちゃんは
怒っていた。
「興味無いのかよ!?」
スパイだから、興味持たれないのはいいこと
じゃない…?ピーちゃん、スパイ向きの性格
じゃないよ。
「じゃあ、話すんだゾ。」
グリムが呆れた目で見つめながら、
話をする様に促してきた。
今にも殴りそうな顔でピーちゃんは
言っていた。
「ぐっ!どいつもこいつも…!!」
そんなピーちゃんを真剣な顔で見つめて教えてくれるように頼んだ。
「ピーちゃん、知りたいから教えて。」
するとー。ピーちゃんがまた話し始めて
くれた。
「し、しょがねーな!!
話してやるよ!!」
…チョロ過ぎて心配になって来た。
「オレのユニーク魔法を使えば、オレは最初からその場にいたってレベルで溶け込む事が出来るんだよ!だから、3年生の中に友人としてオレが会話に混じっても、ソイツらは全員友人って認識して、違和感を抱かない訳!!」
確かにそれなら、騒がれないだろう。
つまりコレはー。
「相手の認識を歪めるユニーク魔法?」
ピーちゃんも悩んでいたようだが、頷いた。
「オレもよく分からないけど、そうだと思う。このユニーク魔法使って大分経つけど、オレが親友だって思って相手に話かければ相手もそう思ってくれるし。」
…確かにコレはスパイ向きだ。
けどー。
「今何も出来ないのは首輪で力を封じられているから。本来なら、もっと活動的に動く予定だった。しかし、予想外のハプニングが
起きてー。」
俺がユニーク魔法を使えない理由を話し始めたら、ピーちゃんに止められた。
「あー、ハイハイ!
もっと冷静に対処するべきだった!
両親にも言われてんだけど!
『ユニーク魔法に頼り過ぎていて、
普段は頭に血が昇りやすい。そんなんで、
スパイ出来るか、バカ息子。』って言われて、出来るわ!みたいになって、学園でスパイ成功させたら認めろよな!オレの事!みたいに…。」
なんか、ぐだぐだだな。最後は自分の事
語っていたし。でも、このユニーク魔法は使える。…今は無理だけど。
「それだけ便利な力なら、ハーツラビュル内
でも利用していたんじゃない?」
ピーちゃんは気まずそうに目を逸らしながら
言った。
「…まぁ、使っていたよ。
ハーツラビュルってルール厳しいし。」
ルール知っていたのに、どうして
守れなかったんだ。色々勿体ないな、
ピーちゃん。
「ルールを知っていたのに、
破ってしまったと。」
俺がそう言った途端に食ってかかる様に
言ってきた。
「しょがねーじゃん!!普通に考えて
あり得るか!?1分遅れただけだぞ!?」
ピーちゃんに乗る様にエースも言ってきた。
「わかるわ〜、タルト一切れ食っただけで
とか無いよな!」
「タルト?」
ピーちゃんは、エースがやらかしたことを知らないみたいだな。…ハーツラビュル内で
広まってそうだけど。「タルト」だけだったしローズハートさんのタルトの件だって
分かってない可能性あるけど。
それよりもー。2人とも、反省する気が
無さそうだから正論を言ってやる。
「ピーちゃんは、5分前に目覚ましセットするとかいくらでも方法はあった筈。
それを怠ったのは、ピーちゃんのミス。
後、エースはタルト盗み食いなのに
なんで開き直っているの?謝る気ある?」
ピーちゃんは、エースに向かって
聞いていた。
「…なぁ、コイツ本当に味方か?」
エースは不安そうに呟いた。
「…一応。」
正論言ったら酷い言われ様だ。
やっぱりこの学園は、治安が悪い。

ピーちゃんは、気を取り直してハーツラビュルのルールの話を再開してくれた。なんか色々話が脱線したけど、最初はその話をしていたな。
「まぁ、ルールは沢山あるんだけど…。
なにから説明したらいい?」
そうだな、ローズハートさんに会いに行くしその辺りのルールが知りたいな。
「寮長に会いに行く際のルールとかって
ある?」
「寮長…?なんで?ハッ!まさか!!」
「しないよ、ヒントはタルト。」
ピーちゃはその言葉に数分悩んでいたが、後に分かった様で安心した様に息を吐いた。
「よかった〜、てっきり差し出されるかと…。」
「だからしないって、約束だし。
…それに使えそうなユニーク魔法だし。」
グリムは呆れた顔でこっちを見てきた。
「めちゃくちゃ悪い顔しているんだゾ…。」
そうかな?普通だけど…。
ピーちゃんは、天に向かって叫んでいた。
「くっそ〜、ユニーク魔法のこと
話さなければ良かったー!!」
そんなピーちゃんを無視して、ルールのことを聞くことにした。
「で、ルールとかあるの?」
「…アンタマジで、こえーわ。」
そんなに?

ピーちゃんは俺らを見ながら言った。
「まぁ、タルトは持って行った方がいいんじゃないか?」
エースが眉を顰めながら、聞いた。
「なんでだよ?」
ピーちゃんは、法律を話してくれた。
「ハートの女王の法律・第53条
『盗んだものは返せなければならない』
だし、タルト返せー!!ってなりそうな気がするんだけど…。」
まぁ、道理だよな。それよりも、ハートの
女王の法律ってなに?日本とは違う法律ってことだよな…。じゃあ向こうじゃ普通のことがこっちでは適応されない可能性があるって考えた方が良さそうだな。そんなことを考えていたが、エースは違ったようだ。
「ハァー?面倒くさー、手ぶらでいいよ。」
…謝る気ないでしょ、エース。
でも、確かに今から準備するには、時間が
足りない。相手の手のうちを見る意味でも
いいか。
「そうだね、今からじゃ無理だし。」
デュースは、不安そうに聞いてきた。
「いいのか?」
「うん、追い出されたら追い出されたで
敵の手のうちが見えるからね。」
ピーちゃんが、腹の底から声を出して突っ込んで来た。
「だから!悪役なんだよ!セリフが!!」

そんなワケでハーツラビュル寮に向かうことになり、鏡舎に向かうことにした。ハーツラビュル寮に繋がる鏡は、トランプが装飾されており、明らかにハーツラビュルと分かる物だった。鏡の前に立つと、鏡が揺めいた。
これはドワーフ鉱山と同じタイプかな。
するとー。

やっぱ同じタイプだったか。
気が付いたら、違う場所にいた。
グリムは辺りを見渡し、驚いた顔を
していた。
「めちゃ豪華だ!」
辺りを見渡しても、赤、白、赤。
凄い派手。ちょっと落ち着かないかも。
そんな俺とは違い、グリムのテンションは
上がっていた。グリムの言う通り豪華だし、
お茶会とかやってそうな雰囲気。後なんか『ふしぎの国のアリス』っていう映画の装飾に似ている気がする。…そういうの関係なく、赤すぎて落ち着いて寝れなそうだし、
やっぱりオンボロ寮が一番かな。

そんなことを考えていたら、
声が聞こえてきた。
「やばいやばい。
急いで薔薇を赤く塗らないと。」
そう言いながらマジカルペンを出し、
薔薇を赤く塗り始めたのはー。
確かピーちゃんの情報だと、
3年のケイト・ダイヤモンドか。
写真と一致する。

ピーちゃんが、パンパンの鞄を持っている
ことに気が付き鞄を見せて貰うことにした。
すると中に入っていたのは生徒の写真。
エースは、気持ち悪そうにピーちゃんに
聞いた。
「なんで、写真撮っているんだよ?」
ピーちゃんは、当然のことの様に言った。
「だって情報収集は、当然だろ?」
「しかも、隠し撮りなんだゾ…。」
グリムは引いていたが、これは使える。
「この写真預かってもいい?」
ピーちゃんは、焦ってきた。
「なんでだよ!?」
「これ部屋で管理するの危険じゃない?」
そう言った途端に目を逸らしてきた。
「うっ…。」
デュースは呆れた様に言った。
「この顔だと、考えもせずに隠し撮り
していたな。」
だろうな、ピーちゃんってアホ…、違う。
間抜け…、とにかく抜けているし。
「俺なら問題なく管理出来きるよ。」
「そうか!」
「なるほどな。」
エースも、デュースも気が付いた様だ。
ピーちゃんは、分からない様で理由を
聞いてきた。
「実は学園長から、生徒の日常を撮って欲しいと依頼を受けているんだ。…写真が部屋にあったとしても学園長の依頼で生徒を撮っていたって誤魔化せるよね?」
「...じゃあ、渡すわ。
けど!悪用すんなよ!!」
スパイを目指しているとは思えないし、
隠し撮りしていたとも、とても思えない
セリフだった。
ピーちゃんから教えて貰った情報の人、
ケイトさんは薔薇の塗り残しに気が付いたのか、器用に白い薔薇を赤い薔薇に色を変えていた。
「おっと危ない。塗り残しは首が飛ぶぞ。」
…見事なもんだ。
確か、ピーちゃんの情報だと「薔薇は赤く塗らないといけない」「クロッケー大会のフラミンゴは色が決まっている」「誰の誕生日でもないのに寮長の気分次第で突然開かれるティーパーティー『なんでもない日』おめでとうパーティー」とか色々ルールがあるらしい。聞いといて良かったな。沢山ありすぎて頭が混乱するし。…それにしても、ルールが『ふしぎの国のアリス』の内容だ。薔薇を赤く塗るところとか。
「アレ?君たちって…。」
考え込んでいたら、ケイトさんが近付いて
きた。
「君は、レオナくんに無礼な口を聞いた事で有名人になったユウちゃん!」
バッサリと否定した。
「そんなつもりはないです。」
だが、そんな俺の返答にもめげないケイトさんだった。…強くない?この人。大抵の人は俺が意見をハッキリ言うとめげるのに…。
「ウワサ通りクールだね〜。」
次にデュース、エース、グリムを見た。
「で、君たちはシャンデリアを壊した事で
有名人!右からデュースちゃん、エースちゃん、グリちゃん!」
「不名誉だ!」
「大体コイツが!!」
「オレ様は、悪くないんだゾ!!」
うーん、アレはデュースのトンチンカンな
行動が原因な気も…。
ケイトさんはエースに笑顔で近づいてきた。
「で、エースちゃんは更にリドルくんの
タルトを食べて罰則を受けた問題児!
記念に、イエーイ!」
そう言って、撮り始めた。
…あれスマホだよな。
この世界にもあったんだ。
「マジカメに上げていい?」
マジカメ?亀がどうかしたんだ?
「あの、マジカメってなんですか?
亀と何かするんですか?」
すると、ケイトさんは驚いた顔をした。
「えっ!?マジカメ知らないの!?
…あり得るか、よく分からない世界から来たみたいだし。」
異世界から来たってことは広まっているのか。にしても、落ち着かないな。
探る様な目。
「えっと…。」
戸惑っていたら、ケイトさんはさっきまでの探る様な目をやめてくれた。…よかった。
人に探られるのって苦手だし。
「まずは自己紹介した方がいいよね。」
名前は知っているけど、知っていたら不審がられる。俺はエース達に目配せをし、このままでいい事を伝え、エース達は頷いた。
「オレは、ケイト・ダイヤモンド。
ケイトくんって呼んでね。けーくん♡でも
いいよ。」
流石にけーくん♡は…。
「よろしくお願いします、ケイトくん。」
「順応力早いな〜」
俺の塩対応に対しても、上手く順応しているケイトくんを見てやっぱり強いと感じた。
塩対応とかそういうのされたら、めげたりするもんなんだけどケイトくんにはそれがなくて相手にとっての適切な距離感を保つのが上手い人だって感じた。それが出来る人って中々いないし…、この人強いな。
「で、マジカメなんだけど。スマホで撮った写真をアップロードし、共有できるシステムなんだよね〜。」
ケイトくんがマジカメの話をしてくれたのでつい元の世界にあった物の例を持ち出してしまう。
「成る程、インスタグラムみたいなもんか。」
ケイトくんは、分からない様で聞いてきた。
「インスタグラムって?」
元の世界の例はあんまり出さない方がいいな。相手に変に警戒されるし。
「こっちの話です。写るのあんまり好きじゃないのでNGで。」
「そっか〜、残念。」
…俺の気のせいかな?言葉がどこか嘘ぽく感じるのは。その後、ケイトくんを観察していたがさっきほどの嘘ぽさは感じなかった。
「でも無理強いは良くないしね、
他のみんなは?」
グリムは、ドヤ顔で言っていた。
「オレ様はいいんだゾ!!」
ワイワイ騒いでいるのを見て、何をしに来たのか忘れかけた。アレ?何しに来たんだっけ?そうだ、リドルさんに謝りに来たんだ。
…追い出される可能性高いけど。
「グリム、俺らの目的は?」
「あっ!」
グリムは思い出したといった顔をした。
それと同じぐらいにケイトくんは思い出した顔をした。
「やっば〜!!パーティーの開催は明日。
遅れたら首が飛んじゃう。」
…そんな、「遅刻、遅刻〜⭐︎」みたいなノリで言われても困るんだが。
ケイトくんは、近づいてくると頼んできた。
「ねーね君たちー。薔薇塗るの手伝って!」
まぁ、断る理由がないし。
「いいですよ。」
あまりの返答の早さにケイトくんは、
驚いたようだ。
「即答!?早いな〜。」
「慣れているので、こういうの。」
そう言った瞬間、ケイトくんが一瞬曇った気がした。
「慣れているって…。」
元の世界じゃ押し付けてられてばっかり
だった。
「押し付けられるのがってヤツです。
まぁ、断ったところでどうにもー。」
視線を感じた。
「…。」
見ると何か思い詰めた顔をしたケイトくんがいた。不安になり声を掛ける。
「あの?ケイトくん?指示を…。」
ケイトくんは、すぐに持ち直して指示を飛ばしてくれた。
「薔薇を赤くしてね!グリちゃんと
デュースちゃんは魔法で。ユウちゃんと
エースちゃんは、ハイ!コレ!」
そういって渡されたのは、ペンキだった。
「とりあえず塗れって事ですね。」
「そういうこと。」
デュースと、グリムは困っていた。
「魔法で、色を変えるですか…。」
「そんな事やった事ないんだゾ。」
まぁ、2人とも不器用なところあるし。
出来なかった出来なかったでー。
「なんとかなるよ、塗れなかったら全部俺が塗るし。」
俺がそう言った途端にケイトくんは、
何か納得した様に呟いた。
「あー、なるほど。
そういう感じなんだ、ユウちゃんは。」
「?」
「気にしないで。」
ケイトくんが、これ以上は踏み込ませてくれそうになかったので黙る事にした。

薔薇をペンキで塗っていたが、周りは凄い惨状だった。デュースは赤くしようとしていたのだが何故か黄色くなったり。
「赤くなれ!あれ?なんか黄色になった!?」
一気に塗ろうとしたグリムが火を飛ばした結果、エースの方に飛んでいきエースが焦げそうになったり。
「フナ〜!!」
「バッカ!お前!火を飛ばすんじゃねー!」
その為、大惨事になっていた。
…一旦落ち着かせて行動させた方がいいな。
そう思ってピシャリと言った。
「…みんな落ち着こう。」
だが、デュース達はそう簡単に落ち着いてはくれなかった。
「分かっているが!」
「上手く出来ないだゾ〜!!」
「クッソ〜!魔法が使えたら!」
…みんな焦り過ぎ。
「みんな焦り過ぎだよ?前に魔法はイメージって言っていたでしょう?焦っている状態じゃ上手く出来ないんじゃない?」
グリムは、悔しそうにうめいた。
「う〜!!」
「グリムは、纏めて全部やろうとするからダメなんだと思う。1つずつやってみて。」
「でも、全部の方がー。」
俺のアドバイスに対しても中々受け入れてくれないグリムをみて別の言い方をすることにした。
「楽だし、カッコいいでしょう?
でも、グレート・セブンも最初は地道な事から始めただろうし最初は、ゆっくりやろう。」
「グレート・セブンも?」
グリムに優しく言った。
「うん、確実に力をつけて行こうよ。」
「分かったんだゾ!!」
そう言うとグリムは、1つずつ薔薇を赤く染めていった。上手く塗れているグリムを見てここはもう大丈夫だと判断し、デュースの元に向かった。
「で、デュースは色々考え過ぎるから色が黄色とかになるんだと思う。」
「え!?」
「薔薇って赤以外もあるでしょう?
そのイメージがデュースの中にあるんじゃないかな、だからついそっちに意識が飛んで黄色とかになっちゃう。魔法はイメージ、でしょう?だから赤、赤、赤とか呟きながら染めるといいよ。」
「よっし!やってみるか!
赤!赤!赤く染まりやがれ!!」
…最後なんで命令口調なの?
でも、上手くいったみたいだ。
問題はー。
「エース、塗らないの?」
「…。」
あー、これはやらなそう。
「分かった、なら俺がー。」
「ハイハイ!分かりましたよ!!」
なんも言ってないのに…。
「本当っ、腹立つわ!アンタ!!」
そう言って、エースはペンキで薔薇を赤く塗り始めた。

赤く塗り終わった薔薇を見て、ケイトくんは満足気な顔をした。
「ありがとう!思っていたより早く終わったよ。…ユウちゃんは、敵に回すと厄介そうだね。」
なにかケイトくんが呟いていた気がしたが、
上手く聞き取れなかった。
…そろそろ行くか。
「…あの、寮長に会えますか?」
ケイトくんは、俺がくるのを分かっていた様で言ってきた。
「…そろそろ来ると思った、ユウちゃんの事だ。この寮のルールはある程度知っているんだろう?」
見抜かれている、なら隠す必要はないか。
「ええ、確かハートの女王の法律・第53条
『盗んだものは返せなければならない』でしたよね。」
「そう、だから君たちはタルトを持って来ないといけない。…けど、見た感じ手ぶらだね?」
「ルールは、絶対ですか?」
「そうだよ、寮長によって違うけど特にリドルくんは真面目な子でね。」
…確かに真面目そうだったな、やり過ぎて
反感が起きないといいけど。
「…なら、出て行ってもらうよ。」
そう言って、ケイトくんはマジカルペンを
構えて来た。…やっぱりね。仕方ない。
「…3人とも構えて、あの人やる気だ。」
エース達は、驚きケイトくんを見る。
「マジで!?」
デュースは、逃げる方向を提示してきた。
「逃げる方向で!!」
「まぁ、それもあり。
…だけど。」 
グリムが不安そうな顔で見てきた。
「なんなんだゾ?」
「ここで戦った方が、相手の力とか少しは
分かるよね?」
「やっぱりか!」
エースは、そう言ってマジカルペンを
構えた。そんな俺らを見て、ケイトくんは
満足気に頷いた。
「うんうん、ユウちゃんなら乗ってくれる
と思っていた!」
それだけ呟くと、何か呪文を唱え始めていた。…なにする気だろう?
「オレはコイツで、コイツはアイツ。
『舞い散る手札』」
そう言い終わると、ケイトくんが増えていた。…4人?アレ全部本体か?
1人ずつ撃破するとか考えたけど、無しだな。
現実味がない。俺らが今使えるのって、投げる、火、大釜だし。…後はこれか。色を変える魔法。どれも有効になる気はしないな。
相手を良く観察してみるか。フィクションで見る奴だと、本体を倒せば後は終わり系が多いけど、多分アレはそういうタイプじゃないな。分身を保つって事は、それだけ魔力を消費している筈。なら、時間を稼ぐ方法が一番かな。考えが纏まった辺りでグリムに声を
掛けられた。
「ユウ?どうするんだゾ!!」
今のところ、時間を稼ぐが1番だし。
それを伝えるか。
「うん、そうだね。逃げよう。」
それを伝えたらデュースが驚いた顔でこっちを見てきた。
「えっ。手のうちを見るんじゃなかった 
んじゃ…。」
うん、その上での判断なんだ。
「見たよ、あの分身はユニーク魔法で現れた物。そして、あの分身を保つには魔力が必要だ。」
エースが考えながら、言ってきた。
「つまり、長時間は継続出来ないって事か?」
「そういう事だよ、ケイトくんと戦うなら逃げて、時間を稼ぐ方法が一番。」
デュースが、疲れた様な顔をケイトくんに向けていた。
「地道な作業だな…。」
「仕方ないよ、こっちはそんなに魔法使えないでしょう?」
「まぁ、否定はしないが…。」
黙って見ていたケイトくんだが、やがて分身を解いた。分身を解いたケイトくんを見て
エースは驚いた顔をした。
「なっ!?」
だが、ケイトくんはさらりと言った。
「そんなに驚く事?エースちゃん。
ユニーク魔法の弱点を見つけられているし、
これ以上の戦闘は無意味でしょ?」
確かにな…、正直言って戦闘をやめてくれたのは有難い。
「同意見です。」
ケイトくんは、マジカルペンを仕舞うと
言った。
「なら、帰ってくれる?」
俺はそれに頷いた。
「ええ、また近いうちにタルト持って
きますよ。」
ケイトくんは話すことはないと判断し、
俺らに手を振って分かれた。
「そ、ばいば〜い!!」

鏡舎まで無事に帰ると、デュースは安心した
ように息を吐いた。
「無事に帰れたな…。」
気のせいか?デュースやつれてないか?
「あっ。」
俺が思い出した様に声を出したら、グリムが
怪訝な顔で見てきた。
「どうしたんだゾ。」
「もう予鈴の時間過ぎてない?」
デュースが焦った様に言ってきた。
「まずい!遅刻するぞ!!」
そんなデュースに釣られる様にグリムも
焦った顔をしていた。
「フナ!?お前たち、急いで教室に行くんだゾ!!」
そんな感じでわちゃわちゃしていたが、
デュースがふと思い出した様に聞いてきた。
「そういえば、ユウ達のクラスはどこだ?」
「1年A組らしいね。」
エースが盛大に突っ込んできた。
「なんで他人事なんだよ!?」
なんだ、エースも聞いていたのか。
黙っていたからか聞いて無いかと。
「オンボロ寮に戻ろうとしたら、変態
…違った。学園長がそれぽい事を言って
いた様な…。」
デュースがふむと言った様に頷き言った。
「まぁ、1年A組って事で考えるか。
間違えていたら、学園長の伝達不足って
事で。」
エースは、そんなデュースを見ながら
呟いた。
「…デュースも、大分こいつに毒されてきたな。」
デュースは焦った様に否定してきた。
「そんな事は!!」
…そこまで否定しなくてもよくない?
「2人ともその辺にしとこう?
遅刻しちゃうよ。」
デュースは、ハッとした様な顔をした。
「そうだった!1時間目は魔法薬学だ!!
急がなくては!!」
走るの疲れるし、歩くー。
そう考えていたが、デュースに手を
引っ張られた。
「急ぐぞ!!」
その結果、歩くつもりだったが走る羽目に
なった。

とりあえず魔法薬学には、間に合ってたようだ。辺りを見渡したらよく分からない瓶が沢山。なんかアレだな、理科ぽい。とにかく間に合ったのは良かったけど、走るのは疲れるからもうしたくないけど。
ん?なんだ?見られている?視線を感じて、見ると全力で顔を逸らされた。やっぱり、噂はまだ消えてないぽいな…。俺が辺りを見渡しているのに気が付いたのかデュースが
言ってくれた。
「ユウは、有名だからな。」
「嬉しくない…。」
だが、有名なのは俺だけではなかった様だ。
「あの隣の奴らは!シャンデリアを壊した
奴ら!」
「…デュース達も有名みたい。」
デュースは、周りがデュース達の話をしていることを知ると叫んだ。
「ふ、不名誉だ!!」

するとー。靴の音が響き、教室に人が
入ってきた。
「私の授業で、騒ぐとはいい度胸だな?」
見た目は、黒、白。
…なんかパンダみたい。
「すいません、パンダ先生。」
そう呼んだ途端に隣のエースが吹き出して
笑いを堪えていた。
「ぶっ!!」
それをパンダ先生は、冷徹な目で見てきた。
「…どうやら、今年の1年は問題児が多い様
だな?」
デュースは、肝が冷えたのかパンダ先生に
謝っていた。
「すいません!謝れ!パンダ先生に!!
…あっ。」
パンダ先生は、頭を押さえながら言って
きた。
「…想像以上の問題児だな、後名前はパンダではない。ディヴィス・クルーウェル。
気軽にクルーウェル様と呼んでー。」
様はないな、様は。
「よろしくお願いします、
クルちゃん先生。」
クルちゃん先生は、機嫌が悪そうな顔をして聞いてきた。
「…その名前はなんだ?」
「いや、なんか名前長いし、略した方が
楽なので。」
クルちゃん先生は、深い溜息を吐き、
言ってきた。
「…分かった事がある。」
「何がですか?」
「…貴様は何を言っても、聞かないタイプ
だな?」
失礼な。クソ真面目で、いい奴だよ。俺は。
「そんな事はー。」
だが、グリム達は思ってくれてなかった
様だ。
「あるんだゾ。」
「あるぜ。」
「あるな。」
「…。」
酷くないか?俺の扱い。
クルちゃん先生は、俺たちのやり取りを見ながら疲れた様に溜息を吐き言った。
「…まぁいい。
授業を始めるぞ。薬草と毒薬100種類の名前と
見分け方をお前らの小さい脳味噌に叩き込む。」
この人、スパルタ教師?
まぁこの知識は、今後役に立ちそうだし覚えておいて損はないか。
クルちゃん先生は、ニヤリと笑いながら
言ってきた。
「テストで赤点をとる生徒が1匹も出ないように厳しく躾けていくからそのつもりで。」
…やっぱりスパルタだ。この人。
後やっぱりクルちゃん先生だと言いにくいし、パンダ先生にしよう。

次の時間は、魔法史だった。
…歴史を学べるのはありがたいかな。
この世界について不明な事多いし。
真面目そうな年齢の男性が教壇に立ちながら喋っていた。
「私は魔法史の授業を担当する、トレインだ。こちらは使い魔のルチウス。」
そう言ってトレイン先生が撫でながら紹介した猫がいた。その猫は撫でられると気持ち良さそうに鳴いたが声が大きかった。それを見ながら、家にいたデブネコを思い出した。
…アイツもあんな感じてブサカワで声がデカかったな。叔母さんに餌貰えているよな?
俺が道端で死にかけてんの見かけてほっとけなかったから拾って…俺が1人で面倒見るって言って特別に家で買うことを許して貰った猫。拾ったときからデブだったから、そのまんま「デブネコ」って名前付けたけど。
…今考えるとまんま過ぎてセンスないな、
ルチウスとかこっちはまともぽい名前なのに。結局、使い魔ってなにか分からないしな。まぁ、そのうち授業で教えて貰えるかも知れないし、分からなかったら図書館で調べればいいや。

魔法石の事件の後、デュース達と別れて後は寝るだけだったのだが、あることを思い出した俺はグリムに先にオンボロ寮に戻る様にいい、学園長室を訪れていた。学園長はまた訪ねてきた俺に驚いた様だった。
「おや、ユウくん。なにか忘れー。」
「報酬の件ってどうなっています?」
学園長を無視して話を進めることにした。
「はい?」
学園長は何のことか分かってない様だった。
なので、分かるように説明する。
「鉱山に化け物がいるなんて知らないで
行ったのでおかげで死にかけました。
その報酬がまだなので。」
学園長はなんとか誤魔化そうとしている
ようだった。
「私も知らなかったんですよ!」
「それじゃあ済まないと思いますが。
…学園の生徒が学園長に無理矢理鉱山に
魔法石取りに行かされて死にかけたって知ったら保護者の皆様はどう思うでしょうね?」
学園長は、青ざめ言った。
「…私を脅すつもりですか。」
まさか。
「取引ですよ、退学を取り消すにしてもリスクが高すぎることをやらせた。だから、その分の報酬を下さいって話です。これに乗らないならレオナさんにお話しするってだけですから。」 
学園長は深い溜息吐きながら、言った。
「…よりによってキングスカラーくんを選んだ理由は?」 
ああ、それはー。
「レオナさんが王族だから、ですからね?」
「!!」
学園長は、何故それをと言った顔をして
いた。
「レオナさんにこの学園について聞く機会がありまして…その際に聞きました。この学園には寄付金を大量に支払ってくれる人が中にはいるとか…。レオナさんの実家はどうだかは知りませんが、王族とはパイプを持っておきたいですよね?」
「…。」
「学園長が何か危ないことをやらせた、しかも生徒に。そんな場所に王族がいる。
…俺とレオナさんは知り合いですからね。
知り合いが学園長に酷い目に合わされたって王族に伝わったらどうなるんでしょうね?」
学園長は項垂れながら言ってきた。
「…貴方も、この学園の生徒ですね。
まさか学園長である私を脅すとは。」
「そんなつもりないです。で?報酬は?」
学園長は、ほぼヤケクソ気味に叫んだ。
「分かりましたよ!!本来ならこの学園に通う為の学費などが必要なのですがこちらで全額負担します!!なので、設備使い放題!図書館などで元に戻る手かがりを調べ放題!!勿論、生活費も必要ですからね!一万マドルを毎月支払うことにします!」
まさかここまでしてくれるとはー。
やっぱり権力の力ってすごい。
ん?でもおかしくない?
「俺が調べるんですか?元に戻る方法。」
「へっ。」
「なんか手違いぽいし、そっちのミスでしょう?なんも調べてくれないんですか。」
俺がそう言ったら、学園長は折れた様に
言った。
「…わかりました、此方でも調べて
みます。」

そんな感じで、今は学園に通えている。あのとき、学園長と話せなかったら学費全額負担とか恐ろしいことになっていたと思うので学園長と話せてよかった。そう考えていたら、トレイン先生が授業の評価方法を話していた。…危ない、聞き逃すところだった。
「私はレポートだけではなく授業態度でも
評価ー。」
すると、グリムとルチウスが喧嘩を
し始めた。
「フシャアアアア!!」
「フナ〜〜〜〜!!」
…やっぱり、グリムって猫じゃない?
「これも授業態度に含まれますか?」
トレイン先生は、厳しい態度で言ってきた。
「…使い魔の管理ぐらいー。」
グリムは、トレイン先生に使い魔じゃないことを怒りながら伝えていた。
「使い魔じゃないんだゾ!!」
学園長、グリムのことを認めるみたいな話
だったのに他の先生に伝わってないし…。
真面目に仕事しろ。
「一応、学園長に勉強する許可貰いましたし。」
俺の学園長への不満がトレイン先生に
伝わったのか少し同情的な目で見られた。
「…今回は、多目に見よう。
授業に入るぞ。テキスト15ページを開いて。ドワーフ鉱山で宝石の採掘中に発見された魔法石についてだがー。」
なんて言うか、ドワーフと言う単語といい、
宝石を採掘していたってやっぱり映画の内容なんだよな。
「オァ〜〜〜」
今、ルチウスの声で聞こえなかったな…。
だが、ルチウスには負けんと思い必死に
なってトレイン先生の声を拾ってノートにペンを走らせる。
「この世紀の発見により魔法エネルギーは広く世界に知られる事になり、この年は
魔法元年とー。」
やっぱり元の世界とは違うみたいだ。
魔法元年なんて聞いた事ないし。
ふと隣を見ると、エース達は寝ていた。
…寝るの早いな。だが、それを見逃すトレイン先生でもなかった。エース達の前に立ち、机を思いっきり叩く。エース達は寝ていた為、いきなり机が揺れたことに驚き声を出していた。
「うわっ!」
「なんだ!?」
「フナ!?」
トレイン先生は、エース達を冷たい目で見て
言った。
「最初に授業態度も見ると言っただろう?
…居眠りは厳禁だ。」
エース達は、目覚めきってない頭でトレイン先生に謝っていた。
「すいません!」
「分かったっス…。」
「分かったんだゾ…。」
まぁ、こうなるよな。目覚めたばっかりで目が冴えてないせいか謝罪しているのに口があんまり回って無くてアレだし、机を叩くのはやめて欲しいけど。俺、とばっちりだし。

次の時間は体力育成とか言う奴らしい。
…サボりたい。
なんか筋肉ムキムキの熱血系の男性が
グランドにいた。
「オレはバルガル。」
…苦手なタイプだ、なんか上川に似ているし。体育教師って昔から相性がよくなー。
そんなことを考えていたら、バルガル先生が
とんでもないことを言い出した。
「魔法士たるもの、体力がないとな。
そんなわけでグラウンド20周、次に腕立て伏せ100回!」
…魔法と関係ある?これだから体育教師って言うのはー。よっぽど嫌そうな顔をしていたのかエースが言ってきた。
「…アンタが苦手そうなタイプだな。
ま、オレも苦手だけど。」
そんな俺に対してデュースは元気だった。
「運動なら、任せろ!!」
よし、デュースにおぶって貰おう。
「デュース、おぶって。」
デュースにおぶって貰おうと目論む俺に
対して、デュースは驚いていた。
「なぜ!?」
何故ってそりゃあー。
「運動しすぎると、倒れるんだ。」
「ひ弱だな!?」
エースは、溜息を吐きながら言った。
「ドワーフ鉱山の時も、思っていたけど
ひ弱だわ…。」

休み時間、俺は死んでいた。
主に体力育成の授業のせいで。
「…。」
机に突っ伏して一言も喋らない俺を見て
デュースは、おそろおそろと言った感じに
声を掛けてきた。
「大丈夫か…?」
そんなデュースに対して、エースは
冷徹に言い放った。
「ダメだろ。」
「ユウー!!死ぬなー!!」
デュースに死んだ事にされたので、
突っ込んだ。
「勝手に死んだ事にしないで。」
そう言ってのそりと起きあがったら、
デュースは瞳に涙を浮かべていた。
「良かった!!本当に!!」
なんか目を潤ませているし…。
エースは、そんなデュースを見てジト目で
突っ込んでいた。
「大袈裟過ぎだろ。」
デュースはエースに対してムキになって
言い返そうとしていた。
「そんな事は…!!」
そんなデュースをエースは無視して
ぼやいた。
「なーんか、魔法学校っつっても
普通の学校とあんまり変わらないっていうか。」
…まぁ否定はしない。
歴史とか体育とか。魔法薬学ってのは聞いた事ないけど。あれ?何か違和感を感じる…。そう思って俺は、辺りをキョロキョロ見渡していた。その様子が気になり、デュースが理由を聞いてきた。
「どうした?」
俺は、「今日の朝なに食べた?」ぐらいの軽いノリで聞いてみた。
「グリムは?」
辺りを見渡したが、確かにいない。
エースも探してくれたが、いない。
「…いねーな。」
…イヤな予感がする。
そう思って、窓の外を見るとー。

元気に走り回るグリムがいた。
「オレ様は天才だから授業なんか受けなく
てもー。」
朝の件を忘れたのかな?
薔薇だってまともに塗れてなかったのに。
エースが軽く睨みながら、言ってきた。
「…おい、監督不行届だぞ。」
「それについては、返す言葉もない。
…早く捕まえよう。シャンデリアルートに
なる前に。」
エース達の顔が、真っ青になった。
「グリムを急いで捕まえよう!」
「あんの、くそ狸!!」

さて、グリムはー。いた。
中庭を元気に走り回っている。
それを見たエースは、すぐ飛び掛かろうと
した。
「アイツ!」
そんなエースの肩をしっかり掴んで止めた。
「待って。」
だが、エースは呆れた顔をして言ってきた。
「…思いっきり掴んだつもりだろが、
全然痛くねーぞ。」
「えっ?本当?」
エースは、溜息を吐きながら話を
聞いてくれた。
「…で、なんか作戦あんだろ?」
「うん、よくわかったね?」
エースは、そっぽを向きながら呟いた。
「…なんとなくな。」
デュースは、俺を信じてると言う顔をしながら言ってきた。
「それで作戦というのは?
僕はユウの作戦なら信じられる。」
…そこまで信じられると、くすぐったいと
言うか、上手く言えないけど。
「グリムの前に全員で現れても
ダメだと思う。」
エースは、首を傾げながら聞いてきた。
「なんでだよ?」
「グリムって、すばしっこいでしょう?
しかも小さい。俺らが全員で立ち塞がっても、隙間を見つけて逃げる可能性がある。」
デュースは、納得した様に頷いた。
「確かにな。」
「だから、2人はグリムを追いかける振りをして所定の場所に追い詰める。そして3人目が魔法で捉える方法がいいって思うんだ。」
エースがある案を出してた。
「網は?」
聞かれるのは想定済みだったので、網の使い方を説明した。
「ブラフ。グリムは、火が使えるし捕まえた所で火を吐いて網を焼くよね。…前みたいに。」
それを聞いたエースは、納得したようだ。
「あ〜、アイツならやるわ。」
デュースは考えた末に俺の案が1番いいと
言ってくれた。
「そう考えると、ユウが提案した方法が1番か。」
作戦のメンバーはどうするかをエースは
聞いてきた。
「で、誰が追いかけるワケ?ま、アンタとオレは魔法使えないから必然的に追いかけるメンバーになるけど。」
エースのいう通りだ、問題は俺の体力が持つかだけどー。エースが俺の方を見ながら聞いてきた。
「保つのかよ?」
「…多分。」
エースは、呆れながら言った。
「しょうがねー、へばったら運んでやるわ。」
「えっ、いいよ。俺の事はー。」
俺がなにを言うか分かっていたかの様に
エースは言ってきた。
「どうせ、『置いていけ』とかいうんだろ。
…司令官が居ねーと意味ねーだろが。
だから、運んでやる。」
ここまでしてくれるなんて思わなかった。
だから素直にお礼を言う。
「…ありがとう。」
そんなやり取りを見ていたデュースだったが自分の役割に気が付き、驚いた顔をしてこちらを見てきた。
「つまり、魔法を使うのは僕って事か!!」
エースと俺は使えないから消去法でそう
なっちゃう。…申し訳ないけど。
「そうだよ、デュースは木の上で待ち伏せしていて。」
デュースは、疑問に思ったらしく聞いて
きた。
「普通に待ち伏せじゃダメなのか?」
それも考えた。けど待ち伏せは俺が前に
やったからグリムに警戒されている可能性がある。
「グリムが、待ち伏せに気が付く可能性があるし。」
デュースは、納得したように呟いた。
「そうなったら、別の道に逃げる可能性があるか。」
「そ、だから俺らが木の下に誘い込んだらデュースの大釜でグリムを捕らえる。」
デュースは、少し引いた顔をしていた。
「…少しやり過ぎな気もするが。」
なに言ってんの、出会って間もないエースをシャンデリアに投げたりしたでしょ。
それに比べたら軽いもんだよ。
「そんな事ないよ、逃亡したって事はこれからもする可能性あるし、今痛い目に遭えば
今後しないよね?」
デュースとエースがジト目で見てくる。
なんか変な事言ったかな?
「…おそっろしい奴だわ。」
「…グリムに少しだけ、同情する。」
え?そんなに?

グリムを誘い込む為に、エースと頷き合い
グリムの前に現れる。
「オイ!クソ狸!」
「ちゃんと、授業は受けないとー。」
「やなこった!後オレ様はグリム様なんだゾ!」
それだけ言ってグリムは足の隙間から、
逃げた。…よし、作戦通り。
「…後はー。」
「指定の場所に誘い込め、だろ?」
…最近、エースに考えを先読みされている気がするが、気のせいかな?
背後から追って来ている俺らを見てグリムは、更にペースを上げた。
「フナ〜〜!絶対!授業なんて受けないだゾ〜!!」
…やばっ、疲れてきたな。
すると、エースが俵担ぎで抱えてくれた。
「ほんっと、お前ひ弱だな!?」
「…予想よりダメだった。」
「計算ガバガバだな!?」
次は恐らくー。
「エース、多分グリムは
ピンチになったら火を吐いて来る。」
その言葉を合図に、グリムはこちらに身体を向けて火を吐いてきた。
それをエースは、無事に避けた。
「オレ、今魔法使えないんだけど!?」
「…大丈夫。」
そう言って、再びグリムが火を吐いて来る動作をした時にグリムに粉をかけた。
粉をかけた途端にグリムは、痒みが止まらなくなりクシャミをした。
「フナ〜〜〜!!」
その結果、火は別の方向に飛んでいった。
エースは、俺の方を不審な目で見てきた。
「…お前、何したの?」
「薬草振りかけただけ。」
「薬草?」
「そ、薬草。魔法薬学の部屋にあったのを
くすねてきた。」
魔法薬学の際に棚による機会があった。
パンダ先生が薬草の違いを教える為に似た薬草を小瓶から出した瞬間があった。近くで見る振りをして一部拝借してきたもので、そこまで危険性はないハズだ。エースがジト目で睨んでいる気配を感じた。
「…オイ。」
盗んだってパンダ先生が知ったら、
大激怒しそうだけどー。
「薬草っていってもほんの一部だし、
いいんじゃない?」
エースが疑問に感じたのか聞いてきた。
「つーか、なんで薬草なんか…。」
ああ、それはね。教科書読んで薬草の中には調合しなくてもめちゃくちゃ効き目があるヤツあるから取り扱うの注意って書いてあった
からー。
「なんかに役立つかも、って思ったから。
俺力ないし。」
エースは、呆れた様に言った。
「…充分あんだろ、その大胆さとか。」
「フナ〜!!」
グリムは、あまりの痒さにその場を逃げ出し指定の場所に走り出した。
さすがに心配になったのかエースは呟いた。
「…まさか毒薬じゃー。」
「そんなワケないよ、触るな危険って書いてある棚には触らなかったし、毒薬のビンにはドクロマークが付いていたしね。今回パンダ先生が見せてくれたのも見た目が似ているけど効果が全然違うってヤツで、安全なヤツだから。確か痒みが止まらないって言われていた薬草。」
エースが魔法薬学の授業を思い出し、呆れながら言った。
「…やったな、そう言えば。
けど、安全か?それ?」
そうかな?まだ安全じゃない?
「痺れが止まらないとかよりはー。」
エースは、本気で引いた顔をしながら
言ってきた。
「…テメーを敵に回さなくてよかったわ。」
どういう意味だろう?
「?」

鼻を掻きながらグリムは、走っていた。痒さの影響で集中力が乱れているみたいだ。
「うぅ〜〜、痒いんだゾ〜!!」
よし、指定の場所にグリムが着いた。
デュースに合図をすると、デュースは
呪文を唱え大釜を召喚させた。
「いでよ!大釜!」
「フナ!?」
そして、グリムは大釜の下敷きになった。
「な、納得いかないんだゾ!!」
そんなグリムを見ながら、エースは言った。
「こっちには、最強の軍師様がついてんだ。諦めろって。」
最強の軍師?誰が?

グリムを縄で縛り、無理矢理授業に連れていこうとしたがグリムは、ずっと駄々をこねていた。
「やだやだー!つまんない授業は
嫌なんだゾー!!」
…しょうがない、ここは。
「そっか、しょうがないね。」
デュースは、驚いた様に聞いてきた。
「いいのか?」
罠にかける為だし。
「うん、しょうがないよ。
グリムは、一番レベルが低いって事になるけど…、本人が望んでいるならー。」
エース達は、気が付いた様で乗ってくれた。
「ま、しょうがないよな!この学園で一番レベルが低いのも本人が選んだ事だし!」
「そうだな、グリムより上に行こう。
僕たちは。」
途端にグリムは、焦り始める。
「な、なにを言っているんだゾ!」
首を大袈裟に振りグリムに話す。
「…グリム、この学園だと授業を
まともに受けないとランクは一番下。
つまり、最下層なんだ。」
…もちろんそんなルールは、存在しない。
全てはったりである。けど、グリムならー。
「うぅ〜〜〜!!」
首を項垂れながら言った。
「そうか、残念。
なら俺らは上に行くよ。」
…まぁ、嘘。
俺は、グリムと一緒で一人前だし。
「待つんだゾ!!授業は、受けー。」
グリムは、ハッとした。
俺のはったりである事に気が付いたようだ。
「だ、騙したのか?」
「ごめんね。」
「許さないんだゾ!!」
そう言って襲いかかるグリムを縄で器用に動かし、攻撃が当たらない様にした。
「次の授業、なんだっけ?」
「フナッ!?」
エースは、そんなやり取りを見ながら
引き気味に言った。
「…鬼か?」
「?」

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