イースIX〜とある錬金術師と聖女の話〜
…目的は果たした。後は朽ちるだけ。
そう思っていたのだが。
「何を驚いた顔をしている?ゾラ。」
こっちが聞きたい、貴方は何をしているんだ。
役目から解放されたと言うのに、こんな場所に来て。
「ん?何故かと言うと、私がやりたい事だからだが?」
貴方と言う人は…、本当に困った人だ。
誰かの為に尽くす、やらかした自分にも尽くそうとするんだから。
…貴方は、人に尽くしすぎだ。これからは自分の為に生きて欲しい。そう思って追い出す事にした。
「…出って行って下さい、ロスヴィータ。迷惑だ。」
それだけ言って、無理矢理扉を閉めた。
…これでいい、あの人は幸せになれる。
自分の事だけを考えて、生きて欲しい。
「やぁ!ゾラ!いい天気…。」
扉を閉めようとしたが、ロスヴィータは扉の間に手を入れて無理矢理こじ開けた。
もう老体だ、何かをする元気もない。
小さく文句だけを言ってやった。
「…扉を無理矢理開けるとか、無茶苦茶ですよ。」
「何、昔からだろう?その度について来てくれたな。」
…そうだ、この人は昔からめちゃくちゃで無茶ばかりして、だから力になりたかった。
「…それが仕事ですから。」
「だとしてもだ、私は嬉しかったぞ。ゾラ。」
あの時と変わらない陽だまりの様な、見ていて眩しい笑顔を向けられて思わず目を背けた。
…眩しすぎて目を向けられないな、やはりこの人の側に自分は相応しくない。自分は、罪を重ね過ぎた。
「何を暗い顔をしている!笑え!」
「…無理、ですよ。」
「…そうか、私がそうさせたのだな。」
「いいえ!貴方の所為では…!!」
見上げてハッとした。ロスヴィータがニンマリと笑っている事に。
「…嵌めましたね。」
「こっちを見ないからな。」
「それは、失礼しました。」
「まぁいい。」
ロスヴィータは、清々しい顔で語り始めた。
「アドル達が宿命を解いてくれたおかげで、自由になれた。…自分のことに向き合う時間も必要と言われてな。」
それはそうだろ。ロスヴィータは、心が凍る程に長い間戦い続けていたのだ。時間が必要だろう。
「自分が何をしたいか、考えていたらゾラの事が思い浮かんでな。」
「えっ?」
「どうやら私は、自分ではどうしようもないぐらい愚からしい。…罪を犯した者を支えたいと思っているのだからな。」
この人は、何処まで愚かなんだ。…でも、その在り方が美しい。だから、守りたかった。
「…救いようが、無いですね。」
「ああ、無いとも。…だがこれが私がやりたい事だ。」
「なら、付き合いますよ。…地獄の底までね。」
そう言って、笑った。自分はどんな顔をしていたのだろうか。
「フッ。今の顔、昔みたいだったぞ。」
「昔みたいとは?」
「私の後をついて来る少年の様な顔って事さ。」
「…全く、貴方には敵わない。」
心からそう思った。
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