イースIX〜心の芽生え〜

「…上手く行かなかったか。次こそはー」
不思議な夢を見た、人形だから夢と言うより記憶なのだろう。その時、自分はどんな気持ちを抱いてー。
「アネモナさん!」
アネモナと呼ばれて、ハッとアネモナは意識を取り戻した。
横を見ると、帽子が似合う少女キリシャが心配そうに見上げていた。
「はて…?私、何か?」
「何かじゃないです!急に止まったと思ったら、返事が無いし!心配で!!」
如何やら彼女には、要らぬ心配をかけたようだ。キリシャを安心させる様にアネモナは微笑んだ。
「…大丈夫です、天気が良かったのでボンヤリしていたみたいです。」
「なら、いいですが…。」
「それで、今日は?」
「えっと…買う物は…。」
キリシャは、貰ったメモを一生懸命読んでいた。キリシャが張り切るのも当然だろう。何故なら、アドルに頼まれた用事。キリシャはアドルに頼まれた際、頬を赤くし喜んでいた。用事を頼まれた時の事を思い出す。
「キリシャ、ちょっといい?」
「アドルさん!」
キリシャは、嬉しそうに駆け寄っていった。
「ごめん、急がせちゃったかな?」
「そんな事、無いです!!」
「そ、そう?」
キリシャの気迫に思わず、アドルは押される。
「それで、用事と言うのは?」
「ああ、店長に用事を頼まれたから買い物に行けないから代わりに行って欲しくて…。」
それならシルエットに頼むのがはやい気がするが、キリシャはアドルに頼られた事が嬉しかった。
「お任せ下さい!」
「はい、これメモ。」
何故アネモナが一緒かというと、アドルに頼まれた物が想像していたより多くて困っていた所をアネモナが通りかかり一緒に買う形になったからである。
そんなキリシャを微笑ましく見ていたアネモナだが、子供達の声が聞こえて来てそちらに目を向けた。
「オイ!それ捨てんのかよ!!」
「だって壊れているもん!もう要らない!!」
壊れている、もう要らない。
だから、私はお父様に…。
「ダメだよ?要らないなんて言ったら。」
ハッとして見ると、キリシャが微笑んで壊れかけた人形を抱いていた。
「だって、それ壊れているもん!」
「そっか…なら、これでどうだ!!」
キリシャは、そう言って肩から下げているポーチに入っているハサミで自分の手袋を切り始めた。
「なっ!?」
「おねーちゃん、何してんだよ!?」
「これを、こうして…。」
キリシャは、切った手袋を壊れかけた人形に綺麗にアレンジしていった。
「どうかな?」
「おねーちゃん、スゲー!!」
「これなら、要らないってならないよね?」
「うん!ありがとう!!」
元気に手を振る子供達を見送りながらアネモナは、疑問に思った事を聞いた。
「何故、あんな事を?」
「…やっぱり、要らないって言われたらイヤ、ですから。」
「それは…。」
「私達は、ホムンクルスです。それは変えられない事実で
良いんです。…けど、壊れているって聞いた時アドルさん…ううん。赤の王さんを思い出して、そんな事無いって…。」
そうか、キリシャは赤の王を思い出してー。
「今のアドルさんの中にも、赤の王さんはいます。けど…。」
「赤の王とアドルさんは、違うと?」
「そう…なのかな…自分でも分かんないです。」
キリシャは、赤の王に特に懐いていた。赤の王とアドルが融合したと言っても納得は簡単には出来ないだろう。
「私は、人形です。だからその気持ちは分かりません。
ただー」
「ただ?」
「その悩み、考える事は尊い事かと。…私が一番欲しかった物ですから。」
「…アネモナさん。」
そうだ、自分が何故心が欲しいと思ったのか思い出した。
初めて錬成された際、上手く行かず廃棄される事になった。その際、お父様の顔が余りにも切なそうでー。
ああ、自分に心があったら寄り添えたのに。
そう思ったから。
アネモナの顔を見て何か思う事があったのか、キリシャは呟いた。
「…そうですね、今は分かりませんが悩みながら進みます。」
「それでいいかと。」
「あの、アネモナさん!」
「はい?」
「アネモナさんは、充分心を手に入れているかと!一番欲しかったって思えるぐらいですから!!」
そうなのか?分からない。
「分かりません、なら一緒に悩む事にします。」
「それでいいかと。」
「私のセリフを真似ましたね?」
「ふふっ!!」
キリシャが店に戻ると、アドルが待って居てくれた。
「アドルさん!待っていてくれたんですか?」
「うん。アネモナから話は聞いた。…ありがとう、キリシャ。」
『ありがとう、キリシャ』
そのセリフに赤の王を感じて、キリシャは思わずー。
「赤の王さんー!!」
「どうしたの?」
「いえ、なんでも無いです…。」
下を向いて俯くキリシャ。そんなキリシャを見つめながら、アドルは言った。
「赤の王から伝言。ー僕の為に悩んでくれてありがとう、キリシャ。」
キリシャは、アドルに見えない様に泣いた。
そんな様子を遠くから見ていたアネモナは小さく呟いた。
「…私も、自分の心はどう言ったものか足掻き悩む事にします、お父様。」

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