止まない雨はない

「一緒に飲まない?」
そんな風にエレインに誘われた。
アニエスも家で待っているし断ろうと
思った。けれども今日のエレインは何故か強引であった。
「奢るわよ?」
と言い、一歩引き下がらない。
(参ったな…、
アニエスも待っているのに…。) 
するとエレインは、涼しい顔で言い放った。
「ああ、アニエスさんの事?
心配しないで、電話でヴァンを 
借りる事は言っといたから。」
「いつの間に!?
っていうかそんな仲良いのかよ!?」
「たまに、ね。ヴァンが居ない時とか一緒に飲んで貴方の愚痴を言っているわよ。」
「な…!?」
(初耳だぞ!そんな情報…っていうか何で
アニエスは隠していたんだ…?)
「貴方、変わらないわね。
思っている事が全部顔に出ているわよ。」
「ウソだろ!?」
「ま、ウソだけど。」
「オイ!」
「アニエスさんの言った通りね。
思っている事が全部顔に出ているって言えばボロが出るって。」
「アニエスが教えたのかよ!」
自分をそれ程まで理解してくれているのは嬉しいが、からかわれた事に対して思わず拗ねた顔をしてしまった。
「拗ねないの。一緒に飲んでくれたら、 
アニエさんがどうして隠れて私と飲んで
いたか話すわよ。」  
「…。」
「アニエスさんが心配?大丈夫。
ルネがボディガードしていてくれるから。」
「なら、安心…な訳あるか!
アニエスとルネ仲悪いだろうが!」
「今は仲良しよ?たまにルネ、アニエスさんの3人で飲みに行くし。」
「俺は、除け者かい!」
「しょうがないじゃない。 
ヴァンには隠していたし。」
「…何で気がつかなかったんだ…?」
「ルネと私とアニエスさんよ。
無敵じゃない。」
「ソウデスネ…。」
そこでヴァンがハッと気がついたように、
おそろおそろ聞いた。
「…ルネとアニエスって今仲良しなんだよな?って事はだな…ルネの奴…、
俺の過去を…。」    
「話しているでしょうね。」 
「プライベートの侵害!」
「アニエスさんには将来的には知ってもらうんだから問題ないでしょうに。」
正論過ぎて何も言い返せない。
「…ぐッ!正論言いやがるッ!」
「誰かさんのせいで鍛えられましたから。」
「…嫌味か?」
「あら?そう聞こえた?」
楽しそうなエレイン。
(この顔に昔から逆らえないん
だよなぁ…。)
カウンターに行き、カクテルを頼む。
「俺は、カンパリオレンジ。エレインは?」エレインは数分悩んだ後に頼んだ。
「バイオレットフィズにするわ。」
2人は席に着いてカクテルを
楽しむ。     
「はぁ…美味しい。」
「だな。シノの奴また腕を上げたんじゃ
ないか?」
2人は存分にカクテルを楽しんでから、
本題に入る。
「で、何でアニエスは俺に隠れてルネとエレインと飲んでいるんだよ。」      
エレインは言うか迷って覚悟を決めたようにこっちを見た。
「…ヴァン、貴方はアニエスさんを愛しているのよね?」
何でそんな当たり前の事を聞くんだ。
そんな考えが顔に出ていたのだろう。
「顔をみれば分かる。でも、貴方の口から
ハッキリと言って欲しいの。」
そんなの言えるに決まっている。
だから言おうとした。
でも何故かエレインの前では言えなかった。
「…な..ん…で…。」
エレインは悲しそうな顔をして 
「やっぱりね…。」
「どういう事だよ!」
「貴方は、私を置いて逃げた事を後悔してる。だから、私を傷付ける様な行動が出来ないのよ。トラウマって言えば分かりやすいかしら?」
悲しそうに微笑むエレイン。
「アニエスさんが隠れて飲んでいたのはね、貴方が私に未練があるんじゃないかって不安がっていたから。私と貴方が一緒にいると心が苦しいとも言っていたわね。」
(俺は…、アニエスの何を見て…。)
「後悔しているわね。貴方。
でも、アニエスさんは貴方だけには気付かれたくなかった。だから、必死に隠したの。
その想いは分かってあげて。」
「…ああ。」
「アニエスさんやルネと秘密裏に会っていくうちに貴方が私を傷付ける様な行動が出来ない事が分かった。だから、アニエスさんは耐える事にしたの。無理な事をして貴方を傷付けるより貴方を守る事を優先した。」
(…アニエス、お前はどうして…!)
「でも、おかしいわね。あんなに頑張っている子がボロボロになっていいハズがない。」
「エレイン…。」
「私ね、アニエスさんの事大好きなの。あの子が来てくれたからヴァンが変わった。」
「…変わった?」
自覚が無いという風に言うので笑って
しまった。
「ヴァン!それ!本気!?ふふふっ!」
何か笑い方が変だ。 
「エレイン。気持ち悪いぞ。」
「斬られたいの?」
「ハイ…。スイマセン…。」
その後エレインがフッと真剣な顔をした。
「…冗談は言い合えるのにね…。
私が本気で傷付くと思うと動けないん
だから…。冗談キツいわよ…。」
「スマン。俺のせいだな…。」
「止めてちょうだい。私はヴァンのせいだと思ってないから。アニエスさんと結婚しても変わらないんだから。」
「何つーか、人の性質は簡単に変わらない
というか…。」
ため息をつくエレイン。
そしてヴァンの方を見ると覚悟を決めて
話し始める。
「ヴァンは何があっても私を振らない。
それが私を傷付けるから。」
「…。」
「…でも、今のままはもっと駄目。
アニエスさんが不幸になろうとしている。ヴァンとアニエスさんは未来に進むべき。だからー。」
エレインが何を言おうとしているか分かってしまった。だからー。 
「エレイン!待ってくれ!」
「ヴァン、貴方は未来に進むべきよ。
だから貴方を振ってあげる。」
「ヴァン、貴方が好きだった。さよなら。」
「エレイン…、ありがとう…、
俺も好きだった…。さよなら。」

そしてヴァンは、席を立ちアニエスの元に帰る。ヴァンの姿が完璧に見えなくなった頃。机の上に大粒の雫。見たものはビックリするだろう。あのエレイン・オークレールが泣いている事に。
「わたし、がんばったわよね…?」
「ああ、良く頑張ったな。偉いぞ。
エレイン。」
聞き慣れた声がする。
顔を上げれば良く見知った幼なじみがいた。
「ルネ…、どうしてここに…。」
「何。仕事終わったから寄ってだけさ。
それにエレインの事だから泣いていると
思ってな。」
「そんなことないわよ!」
ヴァンと別れたショックか完全に退化している。流石には心配になって来た。
「…エレイン。大丈夫か…?」 
「大丈夫よ。」
エレインはハッキリと言い切った。
「凄い自信だな。」
「最初は、ショックだったけど今は大丈夫。あの頃は置いていかれて、どうして良いか分からなかった。でも、振られた事で想いは昇華出来たわ。」
「そいつは良かった。」
「だから、今度こそ前に進める。」
そんなエレインの晴れ晴れとした姿をみたら兄貴分として手伝わない訳にはいけない。
「ヤレヤレ…、忙しくなりそうだな…。」

ヴァンはアニエスと2人で住んでいるアークライド解決事務所の扉を恐る恐る開けた。
そこにはアニエスがいた。
「あっ!ヴァンさん!お帰りなさい!」
満面の笑みで。
でもヴァンは知っている。
笑顔の裏で苦しんでいた事を。
だからアニエスを抱きしめた。 
「ごめん。」
「〜ッ!ヴァンさん!!ヴァンさん!!
もっと強く抱きしめて!」
アニエスがこんなに自分に甘えてくるなんて事なかった。どれだけ不安にさせていたのだろう。だからもっと強く抱きしめる。もう離さないという様に。
アニエスは、大分落ち着いたのかおそろおそろ話かけてきた。
「…すいません、見苦しい所を。」    
「謝んのは、俺だろ?…アニエスの苦しみを知らなかったし。」
「いいえ!!私が勝手に傷付いたー。」
「俺はそれでも嫌なんだ、アニエスが傷付く所は見たくない。」
「ヴァンさん…。」
「これからも、アニエスの事を沢山傷付ける事があると思う。それでもー。」
「もちろん、側にいます。」
「…ありがとう。」
2人はこれからの未来、今回の事などを存分に語りあうのであった。
END

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