英雄伝説 黎の軌跡II -CRIMSON SiN-〜前日章〜

1.ヴァンが笑顔の理由

アークライド解決事務所の所長である
ヴァン・アークライドは仕事が終わり、
スイーツを買って家に帰る途中だった。
頭の中はスイーツでいっぱいであり、
知り合いが目の前にいる事に気が付く事が
出来なかった。
「随分、間抜け面だな。」
目の前にいる事に気が付かず、間抜けな
叫び声を上げてしまう。
「ぎゃああああ!!」
「…驚き過ぎじゃないか?」
目の前の知り合いは、ドン引いていた。
「うるせぇ!つーか、
いきなり声を掛けるなよ。ルネ!」
ルネと呼ばれた青年は軽い気持ちで謝って
来た。
「済まないな、その反応を見るにスイーツの事で頭がいっぱいだったんだろう。」
ルネ・キンケイド、ヴァンの幼馴染でCIDの統合分析室に所属するエリートだった。
「ぐっ!相変わらず見透かす様な事
言いやがる…。」
「事実だろう?」
「くっ!そうだよ!スイーツの事で頭がいっぱいでした!どうも、すいませんねぇ!!」
ほぼやけくそに謝ってきたヴァンであったが、そんなヴァンをルネはスルーした。
「今日は、お嬢さんは一緒じゃないのか?」
「スルーか、コノヤロー。」
ヴァンの様子を見て、ルネは笑った。
「…何笑ってんだよ。」
「いや?昔みたいな感じに戻ってきたなと
思ってな。」
「それは…。」
「お嬢さん達のおかげかな?」
「…。」
アニエス達のおかげで前向きになったのだが、その事実が恥ずかしくそっぽを向く。
「今の歳でツンデレか、痛いな。」
「そんな事ねーし!?」
ヴァンを散々いじって満足したのか、ルネは立ち去ろうとした。
「さて、そろそろ行くか。」
「何か最近忙しそうだな、前からだったけど最近酷くないか?」
心配そうに見つめてくる弟分を安心させる為に、頭を撫でた。
「…オイ。」
「フッ。これで撫でられる女性の気持ちが
分かったか?」
「ああ!痛いほど分かったわ!だから、
やめろ!」
ルネは、撫でるのをやめて最近の情報を話始めた。
「…今、追っている奴がいてな。奴の動き方次第では、お前にも協力してもらうかも
しれん。」
「…つまりだ、厄介ごとに巻き込む気
満々だと。」
「そう聞こえたか?」
「聞こえたわ!この腹黒メガネ!」
ヴァンは、厄介ごとに巻き込まれる可能性を考えて頭を抱えた。
「ではな。」
「待て!このヤロー!
話は終わってねーぞ!」
そんな話をルネとした数週間後、
ヴァンの元にエレインが訪れる事になる。

2.服を新調した理由:アニエスの場合

アニエス・クローデルは鏡の前で服を
整えていた。
リボンは、青色。シャツは赤色、帽子は黒。
いつものアニエスを知っていたら、驚いた事だろう。
いつもの可愛らしい服装ではない、大人ぽい雰囲気が漂っている。これには訳がある。
ヴァンの元でアルバイトをして大分経つが、未だに意識されてないからである。この前もヴァンの部屋を掃除していた際に躓き、ヴァンに抱きしめて貰った事がある。アニエスはドキドキしていたのだが、ヴァンは大人の対応で、
「大丈夫か?高い場所の掃除なら、俺がやるぞ。」なんて言われてしまった。ドキドキしているのは、自分だけか。理不尽だ、そんな事を思いながらヴァンを睨んでいたら
「ん?何か顔に付いているか?」なんて返されてしまった。
悔しかったので別の日にいつもと違う服装にしてみた。
だが、ヴァンの返事は「似合っているんじゃねーか?」と言う回答でアニエスが求めているのとは違った。自分でも、面倒くさい性格をしていると思うが仕方ない。ヴァンの所為でこんなに面倒くさい性格になったのだから、ヴァン以外はこんなに面倒くさく性格ではない。そんな事をスミレ色の髪色が特徴の先輩に話したら、
「なら、もっと意識してもらう服にしたら如何かしら?」
なんてアドバイスを貰った。
「…でも、ヴァンさん何着ても似合っているって…もう少し服のどこか似合っているとか言ってくれても…。」
また面倒くさい面が出てしまった。褒めてくれるだけで嬉しい筈なのに、褒められると更に求めてしまう。いつから自分はこんなに欲張りになったんだろうか。全部ヴァンさんが悪いんです!なんて愚痴を心の中で零していたら、
「じゃあ、放課後にブティックに集合ね♪」
「はい?」

放課後ブッティックに集合したアニエスは、オデットとレンと一緒に服を選んでいた。特にオデットは、張り切っていた。
「よ〜し!ヴァンさんを悩殺する服を選んであげる!」
「の、悩殺!?」
「面白そうねぇ。」
「レン先輩!?」
「よ〜し!ヴァンさん悩殺作戦開始だ!」
そんな計画じゃなかった筈だ。アニエスは、慌てて止めようとしたが、二人の顔を見てからかっている事が分かった。
「もう!」
「あら。」
「怒こられちゃったか。」
からかわれた事に腹を立ててながら歩いていたら気になる物があり、足を止めて
しまった。
「ごめんってば〜、アニエス?」
アニエスは、オデットの声で我に帰った。
「ご、ごめん!何でもない。…さっきはごめんね?」
「こっちも、からかい過ぎた、ごめんね。」
すっかり仲直りしている二人をレンは微笑ましく見ていたが、小悪魔的な顔でアニエスに笑いかけた。
「な、何ですか?」
「なんで、あのリボンを見ていたの
かしら?」
「!!」
見られていた。
「リボン?なるほどな〜。」
「分かりやすいわよね。」
「ううっ…!!」
アニエスが見ていたのは、青いリボンだった。ヴァンの事を想像してしまい、見つめていたのだが二人にはバレていた。
「買わないの?」
「うっ。」
「しょうがないわねぇ。」
「えっ。」
そう言うとレンは、レジに向かっていた。買い終わったのかアニエスの側に来て袋を渡してきた。
「プレゼントよ、大事に使いなさい。」
開けると、青いリボンが入っていた。自分の気持ちを察してくれたのか。
「…ありがとうございます。
大事に使わせていただきます。」
レンは、その言葉に満足している様だった。
その後もアニエスは、服を見ていたのだがついヴァンに近い色があると目で追ってしまう。その度に二人に優しい目で見つめられて、疲れてしまった。
「これでバッチリなんじゃないかしら?」
「見てみたいな〜!」
「じゃあ、寮で…。」
言い終わる前にレンは、
「ちょっと待ってなさい。」
それだけを言って、何処かに行ってしまった。暇だった為、雑談をしながら待つ事にした。
「本当に楽しみ!ヴァンさん、絶対
驚くって!!」
「そうかな…。」
自信がない。
「もし、これで驚かなかったらヴァンさんの事叩いてやる!」
「あんまり、過激なのは…。」
「待たせたわね、着替える場所を借りれる事になったわ。」
「さっすがレン先輩!」
「いいんでしょうか…。」
不安がるアニエスをオデットは、引っ張って連れて来た。
そして、現在鏡の前でアニエスは買った服を着て変な場所がないかを確認していた。
「うーん、ミニスカートの方が絶対いいって二人に言われてつい買っちゃたけど…。」
やっぱり、大胆過ぎただろうか。足がいつもより露出しているし、やめようかなそんな事を考えていたら、オデットが声をかけて
来た。
「アニエス〜?もういい?」
「う、うん!」
オデットはカーテンを開けて驚いた。それぐらい、いつものアニエスとは違ったから。
「オデット?やっぱり変…?」
「そんな事ない!変わり過ぎてビックリしただけ!」
「そんなに?」
「あら?あんまり自覚がないのかしら。」
「いつも通りだと思いますけど…。」
「それにしても…。」
レンは、アニエスの装いを新たにした服を見渡して微笑んだ。
「すっかり、彼色に染められちゃったわね♪」
「そ、そんな事ないと思いますけど…。」
「いや〜、無理あるよ?何を思ってその服の色にしたのかにゃ〜?」
「それは…。」
「赤いシャツって彼も身に付けていた
わねぇ。」
「!!」
「そもそも、青いリボンに目を奪われる時点でねぇ?」
「うう…!!」
アニエスは、二人に図星を突かれ顔がみるみる赤くなっていった。
「まぁ、虐めるのはここまでにしておきましょう。」
「ですね。」
「もう!」
レンは、急に真面目な顔になり
「…あの人の事、頼んだわね。」
「それって、どう言う意味…。」
意味を聞く前にレンはとっとと歩き出してしまった。
「さあ、お茶会でもしましょう。
いい茶葉が入ったの。」
「わあ!楽しみです!」
アニエスは、そんな二人を後ろから見ながらレンの言葉が何故か頭から離れなかった。
「アニエス?」
「今、行く!」
アニエスがレンの言葉の真意を知ったのは、CIDが虐殺されたというニュースを知ってからである。 

3.依頼する理由:エレインの場合

エレイン・オークレールは、憤どおっていた。何故なら、人が殺されたというのに動けないからである。
エレインがそのニュースを聞いた時は、いつも通りの依頼を受けて帰ろうとしていた時の事である。
「なあ、知っているか?CIDが虐殺されたらしいぜ?」
「マジかよ!?」
「ああ、殺した奴は分からないらしい。
…CIDの連中は全員死んでいたからな。」
「アルマータの生き残りか?」
「どうだろうな…。俺の推測だと…。」
エレインは、話を全部聞き終わる前に駆け出していた。向かう場所は、決まっている。
「ジンさん!」
「来たか。」
カルバード遊撃士協会を束ねる準S級遊撃士であるジン・ヴァセックはエレインが来るのを分かっていた様で落ち着いていた。
「…CIDが虐殺されたって。」
「らしいな。」
エレインはジンの態度にイライラし、口調が荒くなってしまう。
「どうして、そんなに落ち着いているんですか!人が殺されたのに!!」
ジンは、エレインを落ち着かせる為に座る様に言ったがエレインは首を振り座らなかった。ジンはエレインの態度にため息をつきながら、話始めた。
「…ギルドは、何も出来ないからな。」
「えっ?」
「…そんなに驚く事か?」
ギルドは、民間人の安全と地域の平和を守る事を掲げている。だが、CIDはー。
「…彼らは守るべき民間人ではないと?」
「…そういう事だ。」
CIDは、武装している集団だ。その時点で民間人ではない。守る対象ではないのだろう。だが、エレインは納得がいかなかった。
「でも!」
「…最初に言った事を覚えているか?」
「確か何も出来ないでしょう?」
「そうだ。」
「それが、今何の関係が!」
「あるんだ。ギルドの掲げている目的に地域の平和を守る事を挙げているな?」
「だから!さっきから何…。」
エレインは、ジンが言いたい事が分かった。
「気が付いた様だな?今回被害に遭ったのは民間人ではない。そして、被害が民間人に及んでない。」
エレインは、悔しそうに拳を握った。
「…だから、何もせずに見ていろと?」
「…まだ被害は出てないから、様子を見ていろと言うのが上の判断だ。」
「被害が出てからでは、遅いんですよ!!」
「…分かっている。
だが、今は何も出来ない。」
ジンの悔しそうな顔を見て、本当にどうしようも出来ない事を知ったエレインは絶望的な気分になった。
「…失礼します。」
「何処に行く?やれる事などないぞ。」
「やってみないと、分からないでしょう!」
エレインは、そう言うと遊撃士協会を出て行こうとした。出て行こうとしたエレインに、ジンは声を掛ける。
「ああ、一つアドバイスだ。」
「何ですか?」
「そう睨むな、外部の力を借りるといい。」
ジンは、それだけを言って二階に向かって
行った。
エレインは、外で情報を集めながら悔しさを抑える事は出来なかった。遊撃士は、守る為にあるのにそれが機能してない。ギルドが機能しないなら、自分で動くだけだ。そう思い、エレインは行動したが迷っていた。どの様に動くべきか、相手はCIDを虐殺した相手。慎重に動かなければ。
ふとジンの言葉が思い出される。
『外部の力を借りるといい。』
外部の力って言っても…。そんなの…。
いる、この事態を解決に導ける人物が。
だが、頼っていいのか。危険な事に巻き込んでも。
幼馴染の顔を思い浮かべる、ヴァン・アークライド。
大事な存在で恋人だった。力になりたくて、今も思っている。それなのに、力になるんじゃなくて巻き込む形になるなんて、そんなの…。
ヴァンの言葉が脳裏に映し出される。あれは確か、まだ仲がそんなに修復してない時だったか。
『一人で抱え込んでんじゃねぇ』
『必要なら俺だって力にー』
力を借りよう、借りたなら返せばいいだけだ。
覚悟を決めて、ヴァンの事務所に行く事にした。
扉が開く。
「今日はバイトの日じゃー」
全く、誰と勘違いしているのか。
だが、この様子だと自堕落な生活はしてないみたいだ。その事に安心しつつ、ヴァンの目を醒めさせる様な一言を浴びさせる。
「依頼よ、裏解決屋。」
ヴァンが驚いた顔をする。
「さっさと目を覚ましなさいーヴァン。」

黎IIに続くー。
to be continued…。

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