君、アイドルは好きかい?


「え?315プロの偵察、ですか?」
ある日、社長室に呼び出されて社長にそう告げられた。
「そうさ。たとえ無能な君でも役に立つかもしれんぞ?」
自信がない。大体なんだ。315プロの偵察って。
「最近、あそこにJupiterが所属してねぇ。地味に力をつけてきている。961プロに逆らった愚か者だが羽虫程度なら無視して良かったのだがねぇ。愚かにもまた、961プロに逆らおうとしてる。」
別にほっといても良いじゃないか。自分もJupiterは知っている。でも弱小プロダクションで961プロには敵わないはずだ。
「…でも、ほっといても別に問題ないんじゃないでしょうか。相手は弱小プロダクションだし。」
「ノン!だから君は無能から抜け出せないのだよ!」
そんなこと社長に言われなくても、わかっている!自分がダメなヤツなんてこと自分が!言い返せそうとしたが、何も言わずに悔しくて手の平を強く握った。
「弱小プロダクションでも放って置くと厄介な事になると765プロの件で学んだからねえ。今のうちに潰しておきたいのさ。君は、モブの顔をしている。偵察にはもってこいだ」
失礼な。確かにクラスメイトに忘れられることなんてしょっちゅうだったけど。
「返事は?」
やりたくなかったので、言い訳を述べて逃げていたら社長に怒られた。
「フン!これだから、無能は!いいかね!偵察が終わるまで961プロに2度と戻ってくるんじゃない!」
そう言われて、961プロを追い出された。
くそっ!やるしかないってことか…。
俺はその日のうちに315プロの面談を受けたいことを事務員に連絡した。事務員はビルのある場所と面接の日時間を指定し、連絡を切った。案外、早くきまったな…、もう、鬱だけど…。

指定時間の5分前に着き、ビルをみて驚いた。
ボロっ!961プロと全然違う!黒井社長はこんなところを敵視していたのか!?そんなことを思いながらビルをみていると扉が開き、中から男性が出てきた。
「あ!もしかして面接の方ですか?」
「まあ、そうです。」
しっかりとした返事が出来ない自分が
嫌になる。
「良かった!はじめまして!
僕は山村賢です。よろしくお願いします!」
こいつ、どこにメガネかけてんだ?
と思いながらあいさつをした。
「宜しくお願いします。俺は織田信長です。」
「織田信長!武将と同じ名前ですね!」
やめろ。父親の姓が織田なのはいい。そこから武将好きな母親が「織田信長のように強く育って欲しい」とかいう理由で信長とつけたのが良くなかった。それからは地獄だった。信長って名前の割に弱虫とか、信念がないとか。ああ、嫌なこと思い出してきた。315プロに入る。
「パッション!よく来たな!
社長の齋藤孝司だ!」
なんだ。この暑苦しいの。
なんだよ!パッションって!
「社長、お客様が困惑してますよ。」
「そうか。すまん!」
ガッハハと笑う社長。そんな社長を見ながら思った。
苦手なタイプなんだよな。
どうやって付き合ったらいいか
わからないから…。

「いやー。すまん!待たせたな。
早速面接を始めよう。
君の名前は織田信長か、凄いな!
武将と一緒だぞ!」
さっきもみた反応だな、それ…。
「ん?名前に何か問題が?」
「嫌いなんです。自分の名前が。
名前の割に弱虫とか皆勝手に言うから…。」
「…。」
俺は、何初対面の人に話してんだ!
しかし、齋藤社長は気にしてないよう
だった。
「私は好きだぞ!君の名前!」
はじめてだ、そんなこと言われたの。それだけで齋藤社長が少しだけ好きになった。
その後も様々な質問をされた。
「ふむふむ…、なるほどなぁ…、
最後に1つ質問、良いかい?」
齋藤社長はこれまでの中で1番の真剣な顔で、
「君、アイドルは好きかい?」
「え?」
「いや、何今までの質問の解答の中にアイドルが好きというのが感じられなくてね。
315プロは情熱を大事にしている。
しかし、君にはそれが感じられなくてね。
悪いが、アイドルの情熱がない人とはやっていけない。」
確かに自分はアイドルに興味がない。でも、齋藤社長は誠実に話してくれた。
だから自分も正直に話そう。そう思った。
「…正直言うと、好きか分かりません…。」
それを聞いて齋藤社長は残念はそうに
「…そうか。」
と一言だけ呟いた。しかし、まだ続きがあると思い待っていてくれた。
「…JupiterをTVで観ました。
なんかよく分からないけど、
カッコいいなぁ、こうなりたいって…。」

そう、あれは961プロで残業していた頃。
「んじゃ、仕事頼むわ!」
「おいおい、いいのかよ!」
「良いんだよ!アイツ断らないもん!」
「信長とか大層な名前なのによぉ!」
ガッハハと笑いながら帰っていく先輩社員。それを横目で自分は見ていた。
「…好き放題言いやがって…、
ま、事実だからしょうがないけど…。」
いつも通り先輩に押し付けられた書類を自分は片していく。時間は深夜の1時。
思いっきり伸びをする。
「…帰れるかな…、これ…、無理か…。」
自虐気味に笑った。自分はお腹が空いたのでカップ麺を食べながらスマホでTVを見ることにした。
「なんか面白いのやってないかな。
お!歌番組やっているじゃん。みよ。」
それがJupiterとの出会いだった。
「男のアイドルとかあんまり興味ないんだけど…。」
司会がJupiterにインタビューする。
「確か以前は961プロ所属だった
そうですね?」
元気そうな少年が答える。
「そうだよ。」
そうなんだ。俺と同じ…。
「何故辞めたのでしょうか?」
気になるな。
意志が強そうな少年が答える。
「961プロのやり方が納得がいかなかった
からです。」
「!!」
同じだ…、でも違う…、俺は納得いってないけど、彼らは行動してこの結果を手に入れたんだ…、俺は行動してないから何も変わってない…。
「沢山のファンが待っていたと思いますが、それについてはどう思いますか?」
女性を虜にしそうな青年が答える。
「これから、行動で示していきたいと
思います。ずっと待っていたファンの
為にも。」
凄いな…、俺とは真逆だ…、逃げないで行動してる…、俺は逃げてばっかりなのに…。
「ふふ。楽しみにしてます。1人のJupiterファンとして。」
「ありがとうございます。」
気がついたら自分はJupiterに釘付けだった。
「そんな新生Jupiter!早速披露してもらいましょう!曲はBRAND_NEW_FIELD!」
Jupiterが歌って踊る。その度に自分は泣いていた。なんだかエールを貰えた気がして。

齋藤社長は微笑んで聞いてくれていた。
「…なんて言っていいのか分からないけど、アイドルてパワーを貰えるなって…。」
自分でも何を言いたいか分からない。 
でも、あのときJupiterがいたから今の自分がいるそう思えるのだ。齋藤社長はしばらく黙っていたが、それからして
「採用おめでとう!」
と笑顔で言うのであった。
信長は困惑した。
だって自分はアイドルの情熱なんかない。
それなのにいいのか?
「君は情熱がないと感じた。だが、話してみて君は誰よりもアイドルの情熱があることがわかった!おめでとう!」
「…。」
なんか、恥ずかしいな、自覚ないけど。
「担当アイドルについては後日連絡する!君が来てくれて良かった!」
そんなのもはじめてだ。961プロだとずっと無能扱いだったから…。
「今後ともよろしく頼む!」
大きな手が差し出される。信長はおずおずと手を差し出し握った。
「よろしくお願いします…。」
その光景を山村さんはニコニコして
見守っていた。 

会社を出た頃、961プロから電話がかかって
くる。
「…はい。織田です」
「上手くいったみたいだな。これから報告は小まめにしろ。」
そう言って電話が切られた。自分は俯く。
あんなにいい人達の信頼を裏切るのか…、
でも961プロを裏切る勇気が俺にはない…。

次の日、思い気分で315プロの会社の扉を
開けるとー。
「パッションー!!おはよう!信長くん!」
相変わらず、元気な人だな! 
しかも信長って呼んでるし!
「…あの、齋藤社長名前のことなんですが…。」
「ん?どうかしたかね?」
背後から元気に名前を呼ばれる。
「おはようございます!信長さん!」
山村さんも名前呼びかよ!
もういいよ!名前で!
「信長くん、用事はなにかね?」
「たった今、消えました!」
「?」
「さて、それでは君が担当するアイドルを紹介しよう。入りたまえ、Jupiterだ。
君がこれから担当する仲間だ。
仲良くやりたまえ。」
Jupiter。その名前を聞いて心が踊った。
あのとき、勇気をくれたJupiterに会える…。
扉が開き、TVで良く観る顔を観る。
Jupiterだ。
「アンタがプロデューサーか?」
「ちょ、冬馬くんいきなりすぎ〜。」
「まあまあ、担当してくれる運命の人に会えるんだ。少しぐらい大目に見よう」
入ってきてJupiter像がいきなり崩される。
賑やかすぎるだろう!
TVで観ていたのは猫被っていたのか!?
意思の強そうな少年が、
「天ヶ瀬冬馬だ。よろしく頼む。
プロデューサー!」
次に元気そうな少年が
「御手洗翔太だよ。よろしくね、
プロデューサー♪」
最後に女性を虜にしそうな青年が、
「伊集院北斗です。よろしくお願いしますね。プロデューサーさん。」
とあいさつをして来た。
自分もあいさつを返す事にした。
「織田信長だ。これからよろしく頼む。」
3人とも顔を見合わせてそれから、
自分に質問してきた。
天ヶ瀬冬馬が、
「信長ってあの織田信長!?かっけ〜!」
御手洗翔太が、
「すごいね!なんて呼んだらいい?
信長だから、ノブプロデューサー、とか?」
伊集院北斗が、
「素敵な名前ですね。
一瞬で好きになりましたよ。
ノブプロデューサー。」
全員が自分の名前を否定しないどころか
褒めてくれた。
315プロって、本当にあたたかいな…って
いうか、さらっとノブプロデューサーに
決定してないか!?
「あのさ、皆のことなんて呼んだらいい?」
「冬馬で頼むぜ!ノブプロデューサー!」
「翔太でいいよ♪ノブプロデューサー!」
「北斗でお願いします。
ノブプロデューサー。」
やっぱりノブプロデューサーに
決まっているじゃねーか!!
もういいよ!ノブプロデューサーで!! 
齋藤社長のときも同じやり取りをした気が
するが多分気のせいだ。
「…よろしく。冬馬、翔太、北斗。 
君達を担当するノブプロデューサーだ。」
…プロデューサー名は今、決まったけど。
「改めてプロデュース頼むぜ!
ノブプロデューサー!」
「にひひ♪プロデュースお願いね、
ノブプロデューサー!」
「ふふ、素敵なプロデュース、
お願いしますね。ノブプロデューサー。」
全員、プレッシャーかけてくるなぁ…。
でも、悪い気がしなかった。今回は顔合わせということで解散になった。

また、961プロから電話がかかってくる。
無視してもいいのだが信長は勇気が持てず電話に出てしまう。
「…はい、織田です。」
「君ィ…、報告は小まめにしろと言わな
かったか?」
「…すいません。でも、よく分かりましたね?…仕事終わったの…。」
「フン!315プロのビルの周りには監視をつけている。君がビルから出てくることなどお見通しよ。」
「…。」
「逃げられると思わないことだ。
今日の報告をしろ。」
「…Jupiterの担当になりました。
明日から本格的に動き始めると思います。」
「Jupiterの担当に無事になったのか!
まぁ、ならなかったら君をクビにしていたがねぇ。無能なりに働きたまえよ。
…失礼する。」
黒井社長は言いたいことだけを言って電話を切った。逃げられないなら、きちんと自分から報告するか…。
それから自分はJupiterの信頼した顔を思い出して胸が痛くなった。…Jupiter、俺の憧れ、希望をくれた人達。そんな人たちを裏切らなくていかないなんて…、でも…、
961プロを裏切る勇気も俺にはない…、
本当どうしようもないな、俺は…。

気分が重いまま、315プロダクションの扉を
開けた。
「パッション!おはよう!信長くん!
「おはようございます。信長さん!」
「おはよう!ノブプロデューサー!」
「おっはよ〜!ノブプロデューサー!」
「おはようございます。
ノブプロデューサー。」
それだけで胸がいっぱいになってしまう。
やっぱりあったかいな…、961プロだと馬鹿にされてばっかりだったから…。
そんな自分の様子を心配してくる冬馬。
「どころかしたか?ノブプロデューサー?
風邪でも引いたとか…。」
「い、いや、大丈夫だ!
心配かけてすまん。おはよう。皆!」
その声に皆が嬉しいそうにする。
山村さんが入れてくれたお茶を飲みながら、社長に聞く。
「それで今日は、何をすれば?」
「Jupiterを売り込んでくれ。」
営業ってことか。
「分かりました。」
「今から30分後に指定のファミレスで記者と待ち合わせをしている。」
「今から、30分後!?」
もっとはやく言ってくれ!
お茶とか飲んでダラダラしていたじゃ
ないか!
「急がないと!車なら間に合うか!?」
「ヤバいよ〜!」
「ノブプロデューサー!
カバン忘れています!」
途端に慌ただしくなる。急いで車が置いてある場所に向かうとする。
するとー。
「「いってらっしゃい!」」
山村さんも齋藤社長も笑顔で言ってくれる。だから、全員で言った。
「「「「いってきます!」」」」



「…彼らは、上手くやれると思うかね?」
「なんかいい雰囲気ですよね!」
「そうだな。後は彼次第…か…。」
「?」
「なんでもないさ。それよりも
お茶を入れてくれないか?」
「はい!」
社長である齋藤孝司は、まだ先に進めない
青年のことを思い、エールを送った。

やばい。完全に遅刻だ!
連絡は入れたけど…。
目的のファミレスに着く。
目的の記者は窓側から2番目に座っていた。
「遅れてすみせん!私315プロ…。」
「遅い。」
冷たい目で一喝されてしまう。
それだけで全員の時間が止まる。
「時間は無限じゃない。君たちは、私の時間を消費したんだ。」
事実だ。だから何も言い返せない。
「…期待していたんだが。残念だよ、帰らせてもらう。」
Jupiterが期待外れ、そう言われているのが
悔しくて気がついたら頭を下げていた。
「…申し訳ありません!謝り足りないと言うなら、何度も謝ります!だから、Jupiterの話を聞いて下さい!」
恥も全て捨てて謝っていた。Jupiterも記者も驚いていた。
記者は一言聞いて来た。
「…ひとつ、いいか。」
「なんですか、自分に出来る限りのことはします!」
「…なんで、そこまでする。」
記者を見たら、真剣な顔で見つめていたので真剣に応えないと失礼と感じ、真剣に答えることにした。
「…Jupiterに救われたから。」
その答えに、冬馬はー。
「えっ?」
と驚いた声を出した。自分がJupiterに感じていることを話す。
「…ここにくるまで良いことなんて
なかった。でも…、TVでJupiterが歌っているの観て、なんだか泣けてきて頑張ろうって思えたんです…、自分と同じ奴がいるならJupiterの声を届けたい…、その為の一歩です。だから…。」
記者は黙って聞いていたがやがて座る様に促した。
「…座りな。インタビュー聞いてやる。」「…!本当ですか!?」
「2度は言わねぇ!さっさとしな!」
そうしてJupiterのインタビューを無事に掴み取ったのであった。

インタビューを終え、レンタカーでJupiterを事務所に送っている最中、北斗が話かけて
きた。
「…ノブプロデューサー、今日はありがとうございました。」
なにを言っているんだ、怒られるならともかく感謝される意味が分からない。そのことを伝えたら全員に怒られた。
「…流石の僕でも、怒りますよ?
ノブプロデューサー。」
「ノブプロデューサーって、鈍いよね〜。」
「どこに怒る要素あるんだよ!」
「えっ?」
分からない。なんで全員呆れているんだ?自分は相当間抜けな顔をしていたのか翔太が呆れた顔をしながら言った。
「あ〜これ気づいてないパターンだよ!」
「では、言わなくてはですね。」
「世話が焼けるプロデューサーだよ!
本当に!」
なんだよ!悪かったな!
「ノブプロデューサー!
今日はありがとう!ってこと!」
「え。」
「やはり気がついていませんでしたか。」
「鈍すぎだろ!ニブプロデューサー!
後、あれも嬉しかったぜ!
俺らに救われたって!」
「ええ。アイドルやっていて
よかったって思いましたね。」
「ノブプロデューサーも
結構恥ずかしいこというよね〜。」
やめろ。今更ながら恥ずかしくなってきた!
「やめろ!」
「わ〜!ノブプロデューサーが 
照れてる〜!」
「マジかよ!?」
「ふふ、可愛い人ですね。」
くそぉ…、全員からかいやがって。
覚えていろ。

無事に315プロダクションに着いたら
齋藤社長が出迎えてくれる。
「パッション!お帰り!
初仕事はどうだった?!」
相変わらずだな。
パッションの意味が分からないのも。
「無事とは言えませんが、インタビューは
受けられました。あれ?山村さんは?」
「ああ、お茶が切れたから買いに行っている。今日の様子を話してくれ。」
山村さんに心の中で感謝しながら齋藤社長に今日あったことを話した。
「…。」
齋藤社長はずっと黙っているので怒っているかと思い、
「…あの、社長…?」
と声を掛けたら、
「パッション!!素晴らしい!!」
と声を掛けられたのでビックリして、
「うっわ!」
と叫んでしまった。
「社長、いきなりすぎ〜。
びびってんじゃん。
ノブプロデューサーが。」
そんなことないぞ!?…あるけど。
「すまない!だが、信長くんのJupiterへの
情熱に感動した!」
だから!恥ずいって! 
冬馬が真似をする。
「…Jupiterに救われたから。」
「冬馬くん似てる〜!」
「流石だね。」
…テメェら、後で覚えていろよ。
「ははは!随分と仲良くなったな!
明日も頼む!」

315プロを出て人目につかない場所に移動してから黒井社長に電話する。
「…もしもし、織田です」
「ノン!連絡が遅い!」
「…すいません…、今日は雑誌の
インタビューを受けました。」
「それでどうだったのかね?Jupiterは?」
Jupiterの邪魔はしたくない…、必要最低限のことだけ話そう。
「…インタビューを受けましたが、
よく分かりませんでした。」
「全く、使えない…、まあいい、
元より君には期待してない。」
それだけ言うと電話を切った。
よかった…怪しまれなくて…。
こんな思いしても一歩が踏み出せないとか、どんだけだよ…。

315プロダクションに向かうと珍しく山村さんが出迎えてくれた。
珍しいな、齋藤社長が出迎えてこない
なんて。
「おはようございます、山村さん。
あの、齋藤社長は?」
「なんでも大事な用があるとかいって
出ていきましたよ。」
ふーん。齋藤社長も忙しいだな。
いや、社長が忙しいのは当たり前だけど…。
「おはよう!ニブプロデューサー!」
「おはよう♪ノブプロデューサー!」
「おはようございます。
ノブプロデューサー。」
「ああ。おはよう」
気のせいかな、1名名前を間違えていた気がするんだが…。
山村さんが近づいてきて、
「社長がいないかわりに、今日の日程を伝えますね。今日はCDの無料配布だそうです。」
ん?でもJupiterって普通にTV番組に出てるよな?そのことを伝えたら、
「まあな。けど、深夜枠だ。」
「しかも、1枠ね。」
「プロデューサーが観たという番組も、たまたま空きがあったので、参加出来たんですよ。」
そうなのか、でもそのおかげでJupiterと出会えた。感謝だな。

CDを配り始めたが客がこない。
仕方ないよな…、まさかトップ人気アイドル、綺羅星誠也が来ているとは…。
「くっそ〜!全然あつまらねぇ!」
まあ、綺羅星誠也の方にいっちゃたからね。
「予想外だよね〜、人気アイドルがこんな所にくるなんて。」
だよな。俺もだわ。
「僕たちは、僕たちのベストを
尽くしましょう。」
君、本当に自分より年下?
「あー!こんな所でじっとしていられない!CD配ってくる!」
「全く、冬馬くんはしょうがないよね、僕も手伝うよ!」
「僕も手伝おうかな。」
全員がそういってCDを配り始めた。止める間もなかったな、…俺もやろうかな。 
「CDの無理配布やってま〜す!
よろしかったらどうぞ!」
はあ、全然受け取って貰えない…、
しかも、声張るの苦手なんだよな…。
「ニブプロデューサー!?」
やっぱり名前変わってんじゃねーか!
冬馬、テメェ!
冬馬は自分がCDを配っていることを知って、
「…プロデューサーもCDを配ってくれていたのか。」
「一応、Jupiterのプロデューサーだし。
何もしないわけにもいかないだろ。」
冬馬は嬉しそうに、
「…そっか。」
と呟いた。その後に翔太と北斗も集まったが全然受け取ってくれないことが分かった。「ま、そうだよね。」
「簡単にはいきませんか。」
「くっそ…、せめて生の歌聞いて
貰えれば…。」
生の歌を届ける方法か…、
あるかも知れない…、俺は恥をかくが。
「…ちょっと待っていろ、生の歌を届ける方法があるかも知れない。」
「マジかよ!」
「ちょっと準備あるから待っていてくれ。」それだけ言うと目的の場所に向かう事にした。


「どう思う?」
「んーちょっと心配かな。」
「それじゃあ、僕がみてくるよ。」
「頼んだぜ」


いた。彼らに頼む。
我ながら難易度高いなぁ…。
「あの、すいません。」
綺羅星誠也のスタッフに声をかける。綺羅星誠也のスタッフが睨んでくる。こわいな…、でも頑張らないと…、Jupiterのためだ…!
「あの…、マイク借りたいんですけど…。」
「あっ?」
「なんでテメェなんかに!?」
ひぃぃ!こわっ!が、頑張れ自分!
「Jupiterの生歌を届けたいんです!そのためにマイクが必要で!」
それまで黙っていた綺羅星誠也が、
「どうして、そこまでするんだい?」
「えっ?」
「ハッキリ言って僕が来た時点で勝ち目
ゼロだよ。撤退して明日に回してもいいと
思う。」
「…それは考えました。けど…。」
「けど?」
「Jupiterが諦めてないから、自分も諦めたくない。担当アイドルを信じるのも俺の仕事だから。」
その答えに綺羅星誠也は満足そうな顔をして「よろしい。君の答えが気に入った!」 
全員驚いた顔をしている。俺もだわ。
マイクを3つ渡してくれた。
「なんか気になってきたな!
Jupiterを見に行こう!」
「綺羅星さん!?」
スタッフが驚いている。そりゃそうだ。
「なに。今日のステージは終わっている。
何か問題が?」
スタッフは渋々といった感じで納得してくれた。なんかいつも振り回してそうだな…。
そんなことを思っていると後ろから北斗に声をかけられた。
「…プロデューサー、マイク手に入れてくれたんですね。冬馬達の所に戻りましょう!」
「ああ!」
皆の所に急いで戻った。
「ニブプロデューサー!…って横にいるのは綺羅星誠也じゃねーか!」
冬馬は驚いていたが、綺羅星誠也は涼しげに「やあ、こんにちは、Jupiter諸君。君たちのプロデューサーにマイクを貸してくれと頼まれてね、あまりに一生懸命だから君たちに興味が沸いたというわけさ。」 綺羅星誠也はそういうとJupiterにマイクを渡し、
「…魅せてくれるかい?君たちの
ステージを。」
Jupiterはそれに当たり前というように、
「当たり前だ!腰抜かすなよ?」
「にしし♪久しぶりのステージ!
魅せちゃうよ!」
「青空のステージ!楽しもう!」
そしてJupiterによる青空の下のステージがはじまった。曲はない。自分たちの声だけだ。けれども、通行人が足を止めて聴き入っていた。
「凄いな…、Jupiterは。技術は荒削りだけどパワーがあるな…!」
綺羅星誠也にそう褒められたので当たり前のことのように
「自慢のアイドルです!」
そう言った。

Jupiterの青空のステージが終わったら、拍手が起きた。Jupiterは嬉しいそうに笑い、自分も嬉しくなった。
CDはほぼ捌ききったが、綺羅星誠也が
「このCD、貰うよ。」
と言ってCDを貰っていった。
「えっと…。」
「簡単に言うと、Jupiterのファンになったんだ。」
そう言って誰もを虜にしそうなウィンクをした。
「ありがとうございます!」
「これから何かあったら頼るといい。できる限りで力を貸すよ。ああ、それと僕のことは誠也でいいよ。これからも頼むよ315プロ。」誠也さんはその後リムジンで帰っていった。
「あれがトップアイドルか〜。」
「輝きが違いましたね。」
「何言ってんだ!俺らも登るんだろ!
あの頂きに!」
「やっぱり冬馬くんらしいよね〜」
「そうだな。」
「バカにしてんのか!?」
そんなやりとりを見ながらJupiterを頂きに連れていきたいと思った。

Jupiterと解散した後に自分はいつものように連絡をする。
「…織田です。」
「今日は、何があった。」
「CDの無料は配布をしました。」
「結果は?」
「まあまあでした。」
「フン、綺羅星誠也を配置したがあまり意味がなかったか。」
やっぱり、あれは961プロの仕業なのか…。
「貴様は、961プロに尽くすつもりが
あるのか?」
「え?」
「貴様を見張っていた連中の話によると、Jupiterのために犬のように走っていたそうじゃないか。」
見られていた!大丈夫だ。
なんとか誤魔化せば…。
「…Jupiterの信頼を得るためです。」
「フン。どうだかな。」
そう言って黒井社長は通話を切った。
そろそろ限界かも知れない…、
そう思ってうなだれた。

(…あれは…)
北斗は、電話をしているプロデューサーを見つけた。何故北斗がこんなところにいるかというと忘れ物をして、315プロダクションに取りに戻ったからである。その帰りにプロデューサーを見つけた。プロデューサーは誰かと電話をしていた。北斗は電話の内容を聞いて驚愕した。

「今日は、何があった。」
「CDの無料は配布をしました。」
(あの声は!黒井社長!?…それじゃあノブプロデューサーはスパイ!?)
北斗は動揺を隠さず話を聞いていた。しかし、信長の様子を見てー。
(本当に、貴方は僕たちを騙すつもりで?でも、そうは見えない…、ここは…、冬馬たちに相談だな。)
そう思って冬馬たちに電話をかけた。

数分後、冬馬の家に集まったJupiterたち。
「よし!完成だな!」
満足気にカレーを持っていく冬馬。
「お腹空いたよ〜。」
「あ!こら!勝手に食べようとするんじゃねぇ!」
先にカレーを食べ始めた翔太が北斗に聞いた。
「で、何か話したいことあったの?」
皆にプロデューサーがスパイである可能性を話した。
「…ニブプロデューサーが」
「やっぱ、ショック?」
「そんなんじゃねぇ!」
ムキになる冬馬。そんな2人に向かって北斗は「2人とも聞いてくれ。
僕はノブプロデューサーを信じたいと
思う。」
「北斗くん…。」
「北斗…。」
「何も根拠もなく信じるわけじゃないさ。
ノブプロデューサーはいつも真剣に僕たちのために仕事をやってくれた。スパイならやらなくていい事もね。だから、彼を信じてみようと思う。」
そんな真剣な北斗の意見に2人は同調した。
「たっく、ニブプロデューサーも話してくれたらいいのに。」
冬馬は拗ねたように言う。
「あっれ〜。冬馬くん、ショックじゃなくて拗ねていたんだ!」
「悪いかよ!ニブプロデューサーはダメな所あるけど、俺らのために一生懸命で、 
だから!信頼されてなかったって思うと
悔しいじゃねーか!」
「…そうだね。ちょ〜っと水臭いかも。」
「…そうだな。」
Jupiterの心は一つだった。
最後までプロデューサーを信じると。
「そうと決まれば、作戦会議だ!」
「相変わらずだな〜。」
「まあ、それが冬馬のいいところさ。」
「やっぱ、バカにしてんだろ!?」
こうしてJupiterによる作戦会議が始まった。

次の日、315プロダクションの扉を開けるとJupiterが待っており、全員に「待っている」と言われた。
待っているてなんのことだよ?
すると後ろから齋藤社長が、
「パッション!おはよう!
今日は良いニュースがあるぞ!」
もう慣れたな…、このパッションって言うのに…。
「おはようございます、社長。それで良いニュースって言うのは…?」
「ライブができることになったぞ!」
「本当ですか!?」
「ああ。綺羅星誠也くんが、顔をきかせてくれてね。」
マジか…、ありがとうございます。
綺羅星さん。綺羅星さんに心から感謝していると冬馬と翔太が、
「場所は!?」
「時間は!?」
と聞いていた。
「うむ。時間は1週間後、場所は近くにライブハウスがあっただろう。そこで開催する。」Jupiterは顔を見合わせて喜んでいた。
なんだか自分のことのように嬉しくなった。
「今から、練習してくる!」
「僕も!」
「最高のパフォーマンスにしたいしね!」Jupiterは元気に駆け出していった。
そんな様子を微笑ましくみていたら一本の電話がかかってきた。
黒井社長からだ。
途端に冷水を浴びた気分になる。
「…社長、電話がかかってきて外で電話していいですか。」
「ここじゃダメなのか?」
「…すいません。」
「分かった。いいぞ。」
「…ありがとうございます。」

緊張しながら、黒井社長の電話に出る。
「…はい。織田です」
「Jupiterがライブをするそうだな?」
「…。」
「黙っていても分かる。
Jupiterのライブの邪魔をしろ。」
「待っ…!!」
それだけ言うと切られた。
Jupiterのライブの邪魔をしろ…?そんな残酷なこと…でも、961プロを辞める勇気が持てない俺は…、何もできない…、悔しくて手のひらを握る。

Jupiterのレッスンの様子を気分が落ち込んだまま、観にいく。
Jupiterはレッスンも本気だった。
「もう1度、通しでやるぞ!」
「オッケー!」
「了解!」
Jupiterは自分がきていることに気がついて、
「ニブプロデューサー!
見に来てくれたのか!」
「声掛けてくれても良かったのに〜。」
「お疲れ様です。おや…?」
北斗は自分の顔色が悪いことを心配した。「どうかしましたか?
ノブプロデューサー。」
言えない。
俺がJupiterの邪魔をしようとして
いるなんて!
そんな様子にJupiterは心配し冬馬は
声を掛けてきた。
「おい!ニブプロデューサー!
何悩んでるか知らねーが、何かあったら相談に乗るから心配すんな!」
「…普通、逆じゃないか?」
「うるせぇ!
それぐらい酷い顔してんだよ!」
「ノブプロデューサー、
いつでも言ってね!」
「ノブプロデューサー、力になりたいです」
その気遣いが苦しい、俺はJupiterを貶めようとしているのに!冬馬が耐えられないという風に言った。
「あー!もう我慢出来ない!
ニブプロデューサーが言うまで待つって、
思っていたけど言うからな!」
「ま、冬馬くんにしては持った方
だよね〜。」
「もう少し待てるって思っていたんだけ
どな。」
なんのことだ?混乱した顔でJupiterを
見ていると冬馬が、
「ニブプロデューサーがスパイって
知っているってことだよ!」
「!!」
いつ、気が付いたんだ…。
「すいません。ノブプロデューサーが電話しているのを盗み聞きしまして。」
北斗は悪戯ぽく笑った。
「…なんで…、分かって…、放置して…。」
「アンタを信じるって決めたからだよ!」
「!!」
俺を信じる?何を言っている?
すると北斗が優しく微笑みながら言った。
「ノブプロデューサー、信じるには
理由があるんです。」
「理由?」
理由?理由ってなんだ…?
「はい。貴方は僕たちのために一生懸命動いてくれた。961プロの得にならないこともね。」
だって、俺はJupiterのプロデューサーで…。
「あー!面倒くせぇ!嘘だったのかよ!?
俺らに救われたって!」
「…じゃない。」
「は?」 
「嘘じゃない!俺、昔から周りから馬鹿にされていて961でもそうだった!でも!Jupiterの歌を聴いたら涙が出て背中を押してもらえた気がしたんだ!」
「はっずかしいな!アンタ!」
「キミが言わせたんだろう!」
「なら、どうする?」
「へ?」
冬馬が聞いてくる。
「アンタは背中を押してもらって、
一歩は踏み出しでんだよ。
次はどうしたい?」
そんなの決まっている。
ずっと思っていて言えなかった言葉を言う。
「変わりたい!」
「なら、変わろうぜ!」
「手伝いますよ。ノブプロデューサー。」
「にしし♪もちろん僕もね。」
変わるための一歩を踏み出す為に黒井社長を呼び出した。

「こんなとこに呼びだすとは、
偉くなったもんだねぇ、キミィ。」
「久しぶりだな、黒井のおっさん。」
「久しぶり!黒ちゃん!」
「久しぶりです。黒井社長。」
Jupiterの姿を見て、
「Jupiter…!キミィ、これはどういうことかな!?」
「こういうことです。」
そう言って辞表の紙を黒井社長に
差し出した。
「これからは、Jupiterと一緒に頂きを目指します。今までありがとうございました、黒井社長。」
そう言ってお辞儀をする。
しかし、黒井社長は、
「こんなことが許されると思っているのか!認めん!」
と言い、認めようとしなかったが北斗が、
「偵察が終わるまで、961プロに戻るなっとおっしゃったそうですね?」
「それが何か?」
それに気がついた冬馬と翔太が乗ってくる。「まだ、偵察終わってないもんね〜。」
「いてもらわないと、困るな。」
「な…!屁理屈を…!」
「先に言い出したのは、貴方でょう?」
「くっ…!もういい!
そんなやつくれてやる!」
そう言うと黒井社長は消えていった。
「〜はぁぁ。」
「やったな!」
心臓が止まるかと思った。
「ニブプロデューサー。
これからもプロデュースよろしく!」
「よろしくね!」
「よろしくお願いします。」
「ああ!」

Jupiterは舞台袖にいた。
今日は待ちに待ったライブ。
ああ…緊張してきた!
「なんで、ニブプロデューサーの方が緊張してんだよ!」
いや、Jupiterの舞台だし。
「ノブプロデューサーは、
ドーンと構えていてよ!」
「貴方が観ているだけで、力が湧きます。」
そうだな…皆頑張れ!
「Jupiterさん、お願いしまーす!」
スタッフに呼ばれる。
「出番だな。ニブプロデューサー!
行ってくるぜ!」
「ノブプロデューサー!行ってくるね!」
「ノブプロデューサー!行ってきます!」
「ああ!行ってこい!」
Jupiterはそうして舞台に駆け出して
沢山の歓声を浴びた。

自分は今、面接をしている。
315プロダクションはアイドルが増えたので、プロデューサーの数を増やすことにしたのだ。目の前にいるのはきっちりしたスーツに優しそうなタレ目がちな目、長めの髪はヘアゴムで肩の当たりに止めてある男性だ。男性にいくつか質問をした。熱意もあり、315プロダクション向きだと思った。自分はふと思い出したことがあり、はじめて齋藤社長にあったときに聞かれたことを聞いてみるのであった。
「…貴方は、アイドルは好きですか?」
「…僕はー。」
その答えを聞いて自分は小さく
微笑むのであった。

色彩

2次創作置き場です。

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