花冠〜貴方に感謝を〜
ルーファス・アルバレアは、選ばれた人間だと思っていた。…そう、真実を知るまでは。
真実を知る前までの事。
ルーファス・アルバレアは、
父ヘルムート・アルバレア公爵に用事があり、部屋を訪れようとしていた。
使用人に声を掛けられる。
「ルーファス様、ご相談したい事が…。」
「オイ!ルーファス様は、忙しいんだぞ!」
「構わないさ、それで用件は?」
ルーファスは、使用人の用件を聞き解決案を直ぐに出した。
「流石、ルーファス様!
他の者にも知らせます!」
「何、私が出したのは解決案の一つに
過ぎないさ。」
「いいえ!ルーファス様の意見は、他の誰も思い付きませんでした!」
使用人は、ルーファスを尊敬の眼差しで見つめる。
「ルーファス様がいれば、アルバレア家は安泰だな!」
「やはり、ルーファス様こそ相応しい!
…あんな平民の血が流れている奴なんかに任せられるか。」
ルーファスは使用人が最後に呟いた言葉が気になり、咎めた。
「こら、そんな事を言うべきではないよ。ユーシスも立派なアルバレア家の一員だ。」
「ルーファス様は、なんとお優しい!!」
ユーシス・アルバレア。
ルーファスの弟で、平民の血が流れていた。その為周りからの扱いは良くない方だったが、ルーファスはノブレス・オブリージュの精神を大事にし、ユーシスにも親切に対応していた。
「済まないな、父に用事があるんだ。」
使用人は、慌てて謝ってきた。
「申し訳ありません!
足を止めさせてしまい!」
「構わないさ、
これも貴族の勤めなのでね。」
それだけを言って、ルーファスは父の部屋に向かった。その間にも使用人は、ルーファスの立ち振る舞いにウットリするのであった。
「はぁ…流石、ルーファス様!」
「高貴な血が流れている者は、違うわ!」
ルーファスは、父の部屋の前に着き、
ノックをしようとした。
だが、中から不穏な会話が聞こえてきて
出来なかった。
「…では、ルーファス様は実の子ではないと?」
「そうだ。」
「なら、ユーシス様は…。」
「実子だ。」
「なら、どうしてあの様な扱いを…!!」
「アイツには、平民の血が流れている。」
ルーファスは、足元がガラガラと崩れていく感覚がした。
自分が自分じゃない感覚、今での全てを否定されている感覚。父が何かを話していたが、もう耳に入って来ずその場を離れた。
「ルーファス様!」
使用人に声を掛けられる。
尊敬した眼差しで、見つめてくる使用人を
見てふと思った。
彼らは、自分が父の実の息子では無いと知ったらどうなるだろうか、こんな尊敬した
眼差しで見つめてくるか?
そう考え、自分の正体を知ったら蔑んだ目で見つめてくるに違いないと考えたら嫌悪感が止まらなかった。
(…気持ち悪い。私の正体を知ったら
そんな目で見つめて来ないだろう。
心底、気持ち悪い。)
だが、ルーファスはそんな気持ちを隠して
使用人に対応した。
「どうかしたのかね?」
「先程の案ですが…。」
「上手くいったのかな?」
「はい!」
「そいつは良かった。
…済まない、仕事が立て込んでいてね。
一旦部屋に籠らせて貰うよ。」
「申し訳ありません!
…お仕事頑張って下さい!」
「ありがとう。」
ルーファスは嘘の笑顔を貼り付け、
その場を立ち去った。
「私らしくなかったな。
…いや、全てが否定された今、私らしいとはどういう事からかで始まるか。」
ルーファスは、自室で鍵をかけ自虐気味に笑う。仕事が立て込んでいると言ったが、
まったくの嘘である。仕事は、三日前に全て終わらせており、その場から逃げ去るために咄嗟についた嘘であった。
今日あった出来事を思い出すと、嫌悪感が
止まらなくなり吐いた。
「うっ…。はぁ…はぁ….。」
(そうか、私は…。)
「貴族の在り方に疑問を抱いているんだな、だからこそ、その在り方が気持ち悪い。
…吐くほどとは、予想外だったが。」
これからもこの苦しみと向き合わないと
いけないとルーファスは考え、また自虐気味に笑った。そんな日々を過ごしていたルーファスは、運命に出会う。
ギリアス・オズボーンと言う運命に。
ルーファスは、瞼をうっすらと開ける。どうやら寝ていたらしい。横から騒がしい声が、聞こえる。
「ルーファス!やっと起きた!」
「寝過ぎだよね〜。」
「アンタにしては、珍しいな。」
頭に何かを乗せられた。
「ぶっ!!」
「…スウィン、どうして笑う?」
「いや!似合わなすぎだろう!」
「すーちゃん、笑すぎ〜…わかるけど。」
スウィンと呼ばれた少年は、軽く咳払いを
して仲良しげな二人に問いかけた。
「コホンっ!ルーファスの頭に乗っている
それは、どうしたんだ?」
すると、ゴシック調なドレスが特徴的な少女が自慢げに話した。
「ふふんっ!ナーディアと一緒に作ったん
だから!作るのが上手いって言われたから、褒めてくれていいわよ!」
「…成る程。」
ルーファスは、理解した。頭に乗せられたのは恐らく花冠なのだろう。二人は、何処かに行ってくると言ったのは覚えている。どうやらその間に寝てしまったらしい。
「ルーファスの為に作ったんだから、感謝してよね!」
「…。」
「な、何…?私、不味い事言った?」
そう言ってピンクの髪が特徴的なナーディアと呼ばれていた少女の背中に隠れた。
「こら〜!ラーちゃんをいじめるなー!!」
ナーディアはラーちゃんと少女を呼び、
ルーファスを殴る素振りをした。しかし、
本気ではない。だからだろうか。
スウィンも止めようとせずに、一緒に
ルーファスを責めた。
「オイ。顔が怖いぞ。」
ルーファスは困った顔をし、
「私が、悪者かい?」
「ラーちゃんをいじめる奴は、許さない!」
「ま、こう言う事だ。」
「…やれやれ。」
ルーファスは、黙っていた理由を
話す事にした。
「なに。単純に嬉しかったからだよ。」
「えっ?」
「私は、自分と言う物が分からなかった。
…ルーファス・アルバレアと言う記号でしか周りに見て貰えなかったからだ。」
「ルーファス…。」
「何。そんな顔をするな、今は違うさ。
私を見てくれる者達がいる。」
そう言って、スウィン達を見渡す。
「なんか、照れるね〜。」
「…らしくないな。」
「私だって、素直な時ぐらいあるさ。
…花冠をくれた時に私の為に作ってくれたと言ってくれたな?」
「そうだけど…。」
ゴシック調なドレスが特徴的な少女は、
不安げにルーファスを見つめていたが
ルーファスは優しく微笑んだ。
「それが嬉しかったのさ。
私個人を見てくれている気がしてね。
…ありがとう、ラピス。」
ラピスと言われた少女は、嬉しそうな満面の笑みを浮かべた。
「!!当たり前じゃない!
…ルーファスの事は、何度だって
肯定してあげるんだから!!」
ルーファスは、そんなラピスを見ながら
考えた。過去に自分がしてきた事は無駄
だったと思った事もある。しかし、この者達に出会う為の道筋だと思うと決して無駄では無かったのだろう。
「ルーファス?」
「いや、御礼に私も花冠を作ろう。
場所を案内してくれるか?」
「こっちよ!!」
ラピスは、嬉しそうにルーファスの手を引いて歩いて行った。
「おーい。あんまり遠くに行きすぎるなよ。」
「すーちゃん、なーちゃん達も
行こうか〜!」
「何でそうなる?」
「すーちゃんに、花冠作りたいし。
…ダメ?」
「しょうがないな。」
「やった〜!!すーちゃん、大好き!!」
「こら!抱きつくな!」
そうして、四人仲良く花畑で花冠を
作るのであった。
END
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