誓い〜約束を守る為に〜

「アニエスさん?…ヴァンさんに似てるよね?」
何を言ってんだ、コイツは。
「ふふっ。変な顔。でも、他の人でも言うと思うよ?聞いてみたら?」
そこまで、言うなら聞いてみよう
じゃねーか。覚悟を決めて、
事務所のメンバーにアニエスの印象を聞いてみる事にした。
「あ?…なんか似てるよな、テメーら。」
カトルと同じ事、言いやがって…。
「おっ!その顔は誰かに言われたな!」
うっせ!
「…ま、似てない様に見えて魂の形は一緒だよ、テメーらは。」
どういう意味だよ。
「気になるなら、他の奴らに聞けよ?
…ジュディス辺りは、案外テメーが求めている答えをくれるかもな。」
なんだよ…さっきから…。 
とりあえず、ジュディスに聞いてみるか..。
「アニエス?アンタに似ているわよね。」
またか!
「成る程。もう言われていたんだ?」
その顔をやめろ。
「アニエスは、アンタにそっくりよ。」
何処がだ、似てないだろ。
あんな真っ直ぐじゃないし…。
「覚悟を決めたら、一人で抱え込む所。
だから、放って置けないんだけどね。」
確かにアニエスは、無茶をする。
…けど、自分に似ているとはとても思えない。
「ま、アンタから見たらそうかもね。
でも、アタシから見たらそっくり。」
分からない。
確かに助手として学んで事で似てきた部分は、あるかもだが…。
「違うっつーの。
あの子、誰かを庇おうとすぐ前に出るでしょう?まるで、誰かさんそっくり。」
「…。」
「それにアンタに依頼を頼んだ日、
怪我をさせたの申し訳なく思って自分一人で、オクト=ゲネシス探そうとしたんだって?」
「…ああ。」
「やっぱり、そっくり。」
「何処が…?」
「自分のせいでって思ったら、
一人で何とかしようとする所。」

はあ、気分が重い。 
聞くんじゃなかった。
アニエスが、自分に似ている?
笑えるな、そんな訳ない。
アニエスは、陽だまりの様な存在で…
そんな事を考えていたら、目の前に考えていた人物がいた。アニエスである。
アニエスは、こちらに気が付くと
元気に走り寄って来た。
「ヴァンさん!!」
「オイオイ、走ると危ないぞ?」
「すいません!
…ヴァンさんに会えたのが嬉しくって。」
思わず、ドキッとしてしまう。
最近、目が離せない。
妙に意識して、自然と目で追ってしまう。
しっかりしろ!年下だぞ!
「ヴァンさん?」
やばい。完全に不審な行動だったな。
「あー、今から魔獣の討伐に
地下鉄整備路に行くんだが…。」
ついてくるか?と聞こうとしたが、
「はい!ついて行きます!」
先に言われてしまった。
「最近、俺の考え先読みするな…。」
「ふふっ。大分、ヴァンさんの行動が
分かるようになってきましたから。」
アニエスは、悪戯ぽく笑った。
その顔にまたー。
あー、くそ!相手は年下!年下!
邪念を振り払う為に、早足で歩き出した。
「待って下さい!ヴァンさん!」
アニエスが付いてくるのが分かった。
早足で歩いていたがアニエスなら、 
絶対に付いて来てくれるという確信が
あった。
はー、どんだけ信頼してるんだよ…、俺。
無事に地下鉄整備路に着いた。 
アニエスは、きちんと付いて来ていた。
だから、いちいち確認しなかった。
「もっと先だな。」
「はい!」
ふと気になり、アニエスに聞いてみる事に
した。
「…なあ。」
「何ですか?」
「…俺が後ろを振り返らなかったけど、
どう思った?」
「信頼してくれているんだな、
と思いました。」
「ッ!」
「だって、感じましたから。」
「…何を?」
「ヴァンさんが、私が絶対に付いて
来てくれるって信じている気持ちが。」
敵わない、と思った。
「…降参だ。」
「何に対してです?」
「オイオイ、分かっているのに聞く
のかよ?」
アニエスは笑って、それに釣られて
自分も笑った。
「…アニエス。」
「…分かっています。」
人の殺気を感じて、アニエスに声を掛けた。
直ぐに警戒体制に入ってくれた。
たっく…、
いつの間にか立派になりやがって。
「今、子供扱いしましたか?」
…考えを読む力も、日々上がって
来やがって。
馬鹿な会話をしていたら、
痺れを切らした敵が襲い掛かって来た。
「オラァ!」
撃剣で受け止める。
「チッ!」
襲い掛かって来たのは、黒い服を纏った
人物だった。
襲われる理由は記憶に無いが、
服からするとマフィアの下っ端だ。
恐らく何処かで恨みを買っていたのだろう。
「嘘の依頼書いて来た所を、
騙し討ちするつもりだったのに!」
「ご苦労なこった。」
「テメーのせいで!」
「何だよ?」
「テメーが、アルマータを滅ぼしたから!
職が無くなっちまった!」
成る程、そういう事か。
「何だよ!?」
「…別に。」
アルマータのボスは、
自分とは無関係ではない。
コイツがこんな目に、あっているのも
元はー。
なら、罰を受けよう。
それで、不満が晴れるなら。
そう思って瞳を閉じた。
「何、瞳を閉じてんだぁ?余裕だな!
…なら、死ねよ!」
だが、いくら待っても痛みは来ない。
瞳を開けると、そこにはー。
「アニエス?!」
「…ヴァンさん、私怒っています。」
「えっ?」
「…今、黙って攻撃を受けようと
しましたよね?」
「…それは。」
アニエスは、強い瞳でこっちを見つめて
来た。
「…恐らく、アルマータ関連だから
自分が罰を受けるべきって考えたんで
しょうけど。」
参った。そこまで見破られているとは。
「…約束しましたよね。
もう少し考えるって!だから!」
アニエスは、マフィアにアーツをぶつけた。それを、マフィアは慌てて避けた。
「…勝手に、自分を犠牲にしないで
下さい!」
「…アニエス。」
「…ヴァンさんが、傷付くのは嫌です!
いなくなるのも嫌!」
アニエスは、泣いていた。
それでやっと気が付いた。
ああ、自分はなんて残酷な事をしたのだろうかと。
マフィアが立ち上がり、アニエスに攻撃を 
加えようとした。アニエスは、導力杖で守ろうとしたが間に合わない。
「意味わかんねーな!」
「ッ!!」
アニエスは、瞳を閉じたが怪我ひとつない。
何故ならー。
「…させねーよ。」
アニエスを抱き寄せ、撃剣でマフィアの攻撃を防いだ。
「…チッ!」
マフィアは、一気に距離を取った。
「ヴァンさん…あの…。」
「ああ、すまん。」
アニエスから、身体を離す。
すると、アニエスは残念そうな顔をした。
「…もう少し、
抱き締めてくれていても…。」
「ん?何か言ったか?」
「何でもありませんっ!!」
何で、機嫌が悪いんだ。それに顔も赤いし。
「…そうか、アニエス。あのな。」
「何ですか!」
「スマン。」
「えっ。」
これだけは、言わなくてはと思った。
「…また、自分を犠牲にしようとした。」
「…ヴァンさん。」
「しかも、アニエスを泣かせたしな。
親父さんに何をされても文句は、 
言えない。」
アニエスは、困った様に笑った。
「…本当にしょうがない人ですね、
ヴァンさんは。」
「ゔっ!」
「でも、許します。」
「ありがとう。
…俺はこれからも自分を犠牲にするかも知れない。けど…。」
「けど?」
「アニエスを泣かせない範囲で、 
出来るだけ自分を犠牲にしない様に
頑張るわ。」
「もう!…本当にズルい人。」
「?」
何がズルいだろうか、
アニエスを泣かせたくないのは事実だし。
「テメーら!さっきから無視しやがって!」
あっ。完璧に忘れていた。
「その顔!忘れていやがったな!」
「あー、…スマン。」
「あはは…。」
うん、ごめんね?
色々あったから忘れていたわ。
「…ふっ、ふふふ。許さん!」
やべえ、お怒りモードだ。
「アニエス!行くぞ!」
「はい!」
そうして、哀れなマフィアをアニエスと
一緒にボコボコにした。

マフィアをギルドに引き渡した後、
アニエスと一緒にカフェでお茶をしていた。
「以外とかかりましたね。」
「ま、下っ端とは言えアルマータだ。
…後はギルドに任せようぜ。」
ちなみにヴァンがまた自己犠牲に走ったと知った時、幼馴染のA級遊撃手は
おかんむりだった。
「…何もあそこまで怒らなくて良いだろう、
エレインの奴。」
アニエスは、ニッコリ微笑みながら言った。
「…反省が足りないようですね?」
「ハイ、スイマセンデシタ…。」
「全く、この人は…。」
アニエスは、ずっと文句を言っている。
仕方ない、あんだけ心配を掛けたし
泣かせた。
はぁ。自分の駄目さに溜息が出る。
「…ヴァンさん、
誤解しないで欲しいんですけど。」
「ナンデスカ。」
今は、アニエスに謝るしか出来ない。
「私、ただ怒っているだけじゃないんですよ?」
アニエスの話の続きを聞く事にした。
「ヴァンさんが、また自分を犠牲にしようとして。…私の気持ちが届いてなかったんだって悔しくて。だから、八つ当たりです。
すいませんでした…。」
アニエスは、申し訳なさそうに謝ってきた。
違うだろう、謝るのは自分だ。
アニエス達の気持ちは、充分に受け取った。
なのに、自分はまた気持ちを考ずに行動してしまった。
自己犠牲という行動を。
「…謝るのは俺だろ。」
「違います!私です!」
「いいや、俺だな。」
「私です!」
「いや、俺…。」
「私…。」
気が付いたら、笑っていた。
二人で、謝るとか何やってんだか。
『アニエスは、アンタにそっくりよ。』
ジュディスの言葉が思い出された。
こういう所が似てんのかもな。
「ヴァンさん?」
「いや?」
「なんですか!もう!」
アニエスに、これだけは言わないと思い言う事にした。
「アニエス、また助けられたな。
…ありがとう。」
「ヴァンさん…。
なら、今度は私が困っていたら
助けて下さいね?」
当たり前だ。
「約束する。」
「ヴァンさんの約束は…。」
「信用出来ないだろ?
でも、コレだけは死んでも守る。」
「死んだら、約束守れませんよ?」
「なら、死なない範囲で。」
「ふふっ。…はい!」
ヴァンは、指を差し出す。
「ん。」
「えっ。」
「約束、守る為に誓いを立てようぜ。
…何か要望あるか?」
「えっと…」
「特になさそうだな。
じゃ、こっちからいくわ。
ヴァン・アークライドは、
アニエス・クローデルを信じ抜きどんな時も守り抜きます。」
「ふふっ。
…なら、アニエス・クローデルは
ヴァン・アークライドを信じ抜きどんな時も支えます。」
二人は、約束を守る為に指を絡めて誓いを立てるのであった。

END

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