世界から君が消えた日

ヴァン達は、ヴァグランツ=ザイオンと対峙していた。
ヴァグランツ=ザイオンが苦しみはじめる。
「コンナ筈…有リ得ヌ…有リ得ヌ…!」
「ヴァン!後一息よ!」
ジュディスが変身した怪盗グリムキャットで攻撃し、ヴァンがそれに続く。
「グッ…!」
ヴァグランツ=ザイオンは苦しそうに呻く。ヴァンはヴァグランツ=ザイオンに止めを刺そうとした。
「終わりだ!ザイオン!」
しかし、ヴァグランツ=ザイオンは諦めず足掻き、アニエスの方を見た。
「諦メヌ…!ソウダ…!彼ノ者ガ拵エシ絡繰カの縁ノモノ!抑サエレバ…!」
そう言って、アニエスに近付いていった。
ヴァンはアニエスを守ろうと
ヴァグランツ=ザイオンに攻撃するが、
ヴァグランツ=ザイオンは攻撃を緩めない。
「させねぇ!」
「邪魔ヲスルナァ!」
「何処にこんな力が…!
Fio、XEROS、ありがとう!」
飛ばされそうになってカトルを導力ドローンの2体が支える。
「チッ!おい!フェリーダ!」
「分かっています!アーロンさん!」
2人は見事な連携でヴァグランツ=ザイオンが召喚した敵を全て撃破し、
ヴァグランツ=ザイオンに戦技を叩きこむ。
「アニエスさん!大丈夫ですか!?」
「勝手な真似はさせねぇよ!」
アニエスを護るように立つ2人に対して、
アニエスはお礼を言った。
「ありがとうございます!」
アニエスが無事だったことに安心したヴァンだったが、妙な気配を感じて3人に警戒を強める様に言った。
「3人とも、油断するな!」
「えっ?」
「なんだ?」
「これは!?」
3人の隙を突いてヴァグランツ=ザイオンは、3人を球体に閉じ込めた。
「フェリ!アーロン!…アニエス!」
そんな3人を助けようと、リゼットとベルガルドが球体に向かう。
「あの球体を壊せば、3人は助けられます!どこを攻撃するべきかはコチラでサポートします!」
「かたじけない!」
リゼットの指示で、ベルガルドは的確に球体を壊し仲間を救出していく。
「助かりました!」
「助かったぜ!爺さん!」
「後は、アニエスだけだな」
ベルガルドは、2人を助けたようにアニエスも助けようとしたがヴァグランツ=ザイオンに邪魔をされた。
「ぐっ!」
「ベルガルド様!」
「私は大丈夫だ。それよりアニエスが…。」ベルガルドはヴァグランツ=ザイオンに囚われたままのアニエスを悔しそうに見つめる。ヴァンはヴァグランツ=ザイオンに問いかける。
「何が目的だ!アニエスだけ、どうして!」
「ヤツハ彼ノ者ガ拵エシ絡繰カの縁ノモノ!今後邪魔ニナル。
ダカラコソ力ヲ封ジコメル。」
ヴァンは不思議な顔をした。
「それってどう言う…。」
「関係ナイ。
何故ナラ、キサマラハ全テ忘レル。」
「!!」
それだけ言うとヴァン達は意識が消えそうになり、意識が消える前に球体が見える。
ヴァンは球体に手を伸ばして名前を
呼んでいた。
「…アニエス…!!」

ヴァンは、ベッドの上で気が付いたら天井に向かって手を伸ばしていた。
しかし、何もなかったので虚空を掴む。
「夢か…。」
あれ?どうして自分は泣いているんだ?
何か大事なモノを失ったような…。
ヴァンは、涙で濡れた顔を拭た後に、
髪を整え、服を着替える。
そのまま、一階に行きお世話になっている
ビストロ《モンマルト》の一人娘であり、
マドンナ的存在であるポーレットに声を
かける。
「おはよう、ポーレット。」
ポーレットは、ヴァンに気が付いて笑顔で挨拶をしてくれた。
「あら、おはよう。ヴァンさん、
昨日は良く眠れた?」
ポーレットに朝気が付いたら
泣いていたなんて言えず適当に誤魔化す。
「ああ、良く寝れたぜ。
スイーツ食べ放題…、いい夢だった。」
「クスクスッ、ヴァンさんたらっ…。
相変わらずなんだから。」
そんな会話をしていたら、背中に何かが
ぶつかってくる感覚がした。
「ヴァン〜、おはようなんだよ〜!」
「おはよう、ユメ坊。今日も元気だな」
「うん!いっぱい寝たから!あれ〜?」
ポーレットの愛娘であるユメは、
ヴァンを見て不思議そうな顔をした。
「?どうした、ユメ坊?」
「なんか、ヴァン元気ない〜?」
「…そんなことないさ。」
そんな話をしていたらヴァンの目の前の
テーブル席にドンッという音がして、
見るとビストロ《モンマルト》のオーナーであるビクトルが食事を置いてくれていた。
「おやっさん、これ…。」
「コレでも食って、そのしけた面をどうにかするんだな。」
俺は、そんなに落ち込んだ顔をしていたのか。
ヴァンは一言だけ、
「ありがとうございます…。」
と言った。
ビクトルは、照れたように
「…フン!」
と言い去っていった。
「全く、お父さんたら…、
でもヴァンさん。何かあったら言ってね?
支えになるから。」
ポーレットは笑顔でヴァンにそう語りかけ、ヴァンの脳裏に一瞬知らない思い出が蘇った。
「ヴァンさん一人に、背負わせません。」
強い意志がこもった瞳でヴァンを見つめて、腕を支えてくれた。
誰だか分からない、顔も名前も思い出せないから。でも、大切なヤツだった気がする。思い出せない事がこんなにもどかしくて、辛いなんて。
「ヴァン〜?大丈夫〜?顔色真っ白だよ〜?」
ユメの声で現実に引き戻される。
「あ、ああ、大丈夫だ。心配かけたな。」
そう言ってユメの頭をポンポンっと撫でる。また、ヴァンは不思議な感覚に陥った。顔も名前も思い出せないヤツによくやっていたような…。脳裏に映し出されるのは、照れたような顔をする金髪の少女。
誰だ?分からない…。
「ヴァンさん?本当に大丈夫…?
今日は仕事休んだ方が…。」
心配そうに見つめてくるポーレット。
そんなポーレットを安心させる為に置いてある食事を全部完食し、
「大丈夫だ。ちょっと目が覚めてなかったが、食事を食ったら覚めたわ。おやっさんにも、お礼を言っておいてくれ。」
そう言うと逃げるように、
ビストロ《モンマルト》を出た。

ヴァンは、掲示板に貼ってある4SPGを
見ていた。
「今日は、特に…ん?」
張り紙の後ろの奥の見えない所に依頼書が
貼ってあるのを発見した。
「なんだってこんな所に…、
そんだけ他のヤツに見られたくないのか?」ヴァンは緊急性を感じ取り、その張り紙を剥がした。張り紙には場所と時間が書いてあり、依頼内容は特に書いてなかったがヴァンを指定していた。
『ヴァン・アークライド殿 カフェバー《ベルモッティ》 にて10:00に集合。遅刻厳禁』
ヴァンはその依頼書を不審な顔で見ていたが、ザイファで時間を確認し、
「…ま、会えば分かるか。
今が9:00だから、後1時間後か。
結構時間があるな…、寝るか?
…いや、スイーツ巡りでもするか。」
ヴァンは寝ようと考えたが、寝たらまた、
金髪の少女の事を思い出すかもしれない。
そうなったら辛い。
だから、スイーツ巡りをすることにした。

新聞・タバコ《メルローズ》でいつも通り新作のキャンディがないか確認する。
「よおバアさん、いつもの頼むわ…、
新味が出ていたらそいつも追加な。」
いつものやりとりをする。
「ヴァン、お前はいつもキャンディばっかりだね。ウチはタバコ屋だよ、タバコを買いな!」
「吸わねーしな…、キャンディを頼む。」
「全く…、この子は!」
そんなやりとりをしていたら、脳裏に映るのは金髪の少女の困った様な顔。
また…、なんだよ…、一体…。
ヴァンがよっぽど辛そうな顔をしていたのか、ギン婆さんは小さく呟いた。
「…特別だ。料金はツケにしといてやる。」ヴァンは驚いてギン婆さんを見る。
「そんなに驚くことかい。
…キャンディでも食って元気だしな。」
ヴァンはキャンディの受け取りを拒否しようとしたが、無理矢理押し付けられ、受け取らざるを得なかった。
ヴァンはキャンディを口の中で転がしながら、思い出せない金髪の少女の事を考えていた。何故こんなにも自分の心を騒つかせるのか、どうしてこんなにも泣きたくなるのか、と。

その後ヴァンはいくつかスイーツ巡りをした。その度に思い出されるのは、金髪の少女の呆れた様な顔や嬉しそうな顔。
どうして…、思い出せないんだ…?こんなにも逢いたいのに…。
ヴァンは、ハッとした後に不思議そうな顔をした。
逢いたい…?名前も思い出せないのに?俺は何を考えているんだ…?
そんな事を考えながら、歩いていたら目的の場所に着いてしまった。時間を確認する。9:50、まだ早いが、店で待たせて貰うか。
そう思ってカフェバー《ベルモッティ》の扉を開けようとした。また記憶が溢れてくる。
「知ってるもなにも…かなりの有名人じゃないですか!」
金髪の少女の驚いた顔。俺は何を話したんだ…?ぼんやりとして立っていたら、横から見知った声がした。
「ふふっ。ヴァン様にしては早いですね?」そこには《マルドゥック総合警備保障》のサービスコンシェルジュを務め、アークライド解決事務所のサポートをしてくれるリゼットがいた。 
「リゼット…。」
リゼットは、悪戯ぽく笑い、
「わたくしだけでは、ありません。」
後ろを振り返ると頼れる仲間たちがそこにはいた。
「お前ら…、じゃあ依頼主って…。」
「そういう事。」
短パンの少年でバーゼル理科大学の年若き研究者でもあり、アークライド解決事務所では皆の弟分であるカトル。
「久しぶりです!」
高位猟兵団「クルガ戦士団」に所属する年若き猟兵でありアークライド解決事務所では妹分であるフェリ。
「よ!なんだぁ?しけた面しやがって…。」血気盛んな青年たちを統率しているリーダー的存在でもあり、アークライド解決事務所ではトラブルメーカーでもあるアーロン。
「見ない間に変わったわね、アンタ…。
ま、私が来たからには安心しなさい!
すぐに解決してあげる!」
《導力映画》界におけるトップ女優のひとりで、裏の顔は怪盗、アークライド解決事務所では頼れるお姉さんであるジュディス。
「ふむ…。相変わらずだな、ヴァンよ。
抱え込む所は。」
大陸各地に数多くの教え子を持ち、ヴァンの師匠でもありアークライド解決事務所では頼れる年長者。ヴァンはそんな皆を見て困った様に笑った。
「たっく…、怪しさ満載だったぜ?
あの依頼。」
「でも、来てくれました!」
「来なかったら、どうするつもりだったんだよ?」
「ヴァン様に限って、それは無いかと。」
「何でだよ。」
「アンタは、スイーツの様にゲロ甘だからね。」
「そこまでじゃねーよ!?」
「あ、自覚ないんだ。」
「くくっ、いい加減認めろよ。
スイーツの様にゲロ甘ってな!」
「ぐっ!アーロン…、テメェ…。」
「実に解決事務所らしいな。
だが、いつまでもこうしておれん。
店に入って話し合うとしようか。」
カフェバー《ベルモッティ》を貸し切りにして、リゼットがヴァンたちを集めた理由を話し始めた。
「ヴァン様や皆様に集まって貰ったのには、理由があります。それは記憶に欠陥があるからです。」
それにアーロンが同意した。
「リゼットから連絡を貰ったときは驚いたがな。だが、確かに妙な違和感がある。
ここにいる筈のヤツがいない気がする。」
アーロンは、忌々しげに言った。
ヴァンはそんなアーロンを見て驚いた。
「アーロン、お前もか!?
…もしかして全員が?」
フェリが悲しそうに話し始めた。
「はい…、大切な記憶のはずなのに、
それが思い出せなくて…、
リゼットさんから連絡を受けて全員がそうだって知りました…。」
リゼットはヴァンの方をしっかり見つめて
来た。
「なので、全員で記憶を共有したいのです。名前を思い出せない大切な方を思い出す為に。」
ヴァンは名前が出てこない金髪の少女を思い、頷いた。
「まずは、わたしからですね。」
始めは、フェリから始まった。
「わたしがヴァンさんに依頼を頼んだ事は、覚えていますか?」
「ああ。」
「わたしはヴァンさんを尾行していました。ヴァンさんの隣には誰かがいて…、
でも、思い出せないです。
靄が掛かったみたいに…。」
「…。」
そうだ。確かフェリには尾行されていた、だから俺は金髪の少女に黙って着いてくるように指示した。ビストロ《モンマルト》の二階に繋がる階段前でそいつを抱き寄せた記憶がある。フェリを欺く為に。
「もういいか?次は俺だな。」
次はアーロンの番だった。
「黒龍城塞の奥で、金髪の小娘に「アーロンさん、思い出してください!貴方を大切に思っている人は沢山います!」って説教されるんだぜ?知らねーヤツなのに、忘れちゃいけない気がしてな…。」
そうだ、俺たちは大君になったアーロンと対峙して想いを届けようと足掻いたんだ。アイツも逃げないで最後までいてくれた。
「では、次はわたくしが話しますね。」
リゼットが話し始めた。
「サルバット地下水路でヴァン様が、
《金アウルム》のオランピアに襲われていたのを救いました。その際、隣にいてヴァン様を懸命に支えていました。その方はいつもそうだった気がします。」
そうだ。あの時、グレンデルが暴走して…、アイツが支えてくれた。
「次は、僕か。」
カトルが話し始めた。
「観察研修で来た女性の道案内をしていたんだけど、隣にいた筈なのに思い出せないんだ。…可笑しいよね?隣にいた事だけ分かるなんて…。」
そうだ。観察研修でバーゼルをアイツは訪れたんだ。別々に行動して情報を集めた。
「沢山あるんだけど、印象に残っているのにするわ。」
ジュディスが話し始めた。
「初めて、あたしと会った日覚えてる?」
「ああ、覚えてる。
あんときからポンコツだったな。」
「誰がポンコツよ!コホンッ!
あのとき、アンタとフェリちゃんが居たのは覚えている…、後1人いた筈なのよ。絶対。」
そうだ。サイデン地区の上水道に手配魔獣を討伐しに行って、帰ろうとしたらアイツが持っているオクト=ゲネシスが光って…、
オクト=ゲネシス?そんなの知らない。
何を言ってんだ、俺は…。
「最後は私か。」
ベルガルドが話し始める。
「オラシオンにて、アルマータが仕掛けた「ゲーム」を覚えているか?」
「…ええ。忘れられる筈もありません…。」
「その際、おぬしは皆に覚悟を問うたな、
人を殺める覚悟を。」
「..ええ。」
全員に背負わせないで、1人で背負うつもりだった。けど、コイツらは…。
「そうだ、全員背負う覚悟を決めておった。…そして背負う覚悟をしておった少女はヴァンを支える覚悟の目をしておった。何故か思い出せないが、彼女ならばおぬしを変えられるのではと思った事を思い出したわ。」
そうだ。アイツはいつも真っ直ぐに俺を見つめて、正直に話すんだ。だから、目が離せないんだ。
「さて、次はヴァンの番だな。」
「えっ?」
ヴァンは驚いて皆の顔を見る。
「何、呆けてんのよ?」
ジュディスが呆れた様に言った。
「彼女の事思い出すんでしょ?
…あたしの記憶だとアンタが一番近くにいた。だから、お願い。彼女の事を思い出す為にもアンタが思い出した話、聞かせて。」
ジュディスは真剣な瞳でそう言った。周りを見たら全員が同じ顔をしていた。だから、ヴァンは語る事にした。アイツとの思い出を。
「…俺だって、
全てを思い出した訳じゃない。」
アイツとは、屋上で話した。
そのときからアイツには、驚かされてばっかりだ。…いや、もっと前からか。
「…アイツとは屋上で話したんだ。
「全部、皆さんがーとりわけヴァンさんがくれたものです」って言うだぜ?
…驚いたな。ここまで成長するなんて。」
アーロンがニヤニヤしてながら見ていた。
「本当にそれだけか〜?」
「…そうだ」
「全部言わないと、
思い出せなくて大変だぜ〜?」
「アーロン、テメェ…!」
それまでふざけていたアーロンは
真剣な顔になり、言った。
「…言える時に言っといた方が良いぜ。
…失ってからじゃ遅せぇからよ。」
アーロンの瞳が切なそうに笑う。彼は大事な人を失った。だから、言っているのだろう。だから、ヴァンはそんなアーロンに応えるように正直に話した。
「…アイツは笑顔で話していた。
…正直、見惚れっちまったよ。年下なのに…。」
そう。アイツが笑って話してくれた時、その笑顔から目が離せなかった。
「ゲネシスタワーで、アイツがー。」
「私たちは最後までヴァンさんに付いていきます。だからどうか自分一人で片付けようとは思わないで下さい。さっきみたいな事は駄目ですよ?」
そう言って困った様に微笑む少女。アイツには、いつも心配かけてばっかりだな…。
「ちょっと…、何ニヤついてんのよ?」
ジュディスがジト目で睨んでくる。それでアイツもそんな顔をよくしてきた事を思い出して苦笑いした。
「何でもない、次行くぞ。…ゲネシスタワー最奥でジェラール・ダンテスがいてー。」
そうだ、アイツの本名を言ったんだ。
なんだっけ…?思い出せ!大事な事だ!
「アニエス・クローデル―
いや、アニエス・グラムハート。
お前が本名を隠しているのと同様な。」
「…思い出した。
アイツの名前、アニエス・クローデル。
本名は別だけど、大事なのはそんな事じゃない。アイツは、アニエスだ。」
アニエス。そうだ、陽だまりのアニエスに憧れているって言っていた。どんどん思い出が溢れてくる。
車の話をして、興味なさそうにしていた事もスイーツの知識を話して困った様に笑った事も。

「それが貴方の”選択”だと言うなら私たちも”選択”してここへ来ました!」
ピシッ!

「黒でもない、白でもない!
ましてや灰色ですらない―夜明け前の優しい暗がりみたいに寄り添ってくれる貴方だけの色が―どうしようもなく愛おしくて何があっても失いたくはないから!!」
ピシッ!!

「そうですーふざけないで下さいっ…!!
私たちはヴァンさんと
話しているんです…!!」
ピシッ!!!
「貴方が何者かはどうでもいいー
どうか私たちの元にヴァンさんを
返して下さい…!!」 

ガラガラとガラスが崩れていく感覚がした。アニエス、そうだ。
どうして忘れていた!俺を取り戻す為に
足掻いて、来なくても良い場所に来てくれた。今度は俺の番だ…!
待っていろ!アニエス!

「…思い出した。全部。」
全員が驚いた顔をした。
「だから、迎えに行かないと…、メア!」
ヴァンはザイファホロウコアのシステムである支援AIを呼び出す。
「何?」
「話がある。以前、俺が閉じこもったとき、お前の力で俺の元に来れたそうだな?」
メアは驚いた様だった。
「ヴァン、記憶が戻って…、強力な記憶消失プログラムが掛けられていたのに…。」 
ヴァンは皮肉げに笑った。
「じゃあ、その記憶消失プログラムが
甘かったって事だな。」
「そんな訳!ヴァグランツ=ザイオンの力よ?そんな簡単に解けるわけないじゃない!」
「テメェは、縁を甘く見過ぎだ…、
ま、俺もだが。で、どうなんだよ?
いけんのか?」
メアは考えた末に、答えた。
「無理ね、オクト=ゲネシスがないと。」
オクト=ゲネシスなんか持ってない。
アニエスが持っていた筈だ。どうしたら…。いや、アニエスは何も分からない状態で足掻いた筈だ。ならば、俺が諦めて良いはずがない。アニエスの事を強く思う。すると、事務所のデスクが光始めた。そちらに行くと
オクト=ゲネシスが光っていた。
なんで…コイツが…。
声がした気がした。
「ヴァンさん、信じて待ってます。」
アニエス、もしかして届けてくれたのか?
コイツを?面倒かけっぱなしだな…。
「メア、これなら大丈夫か?」
メアは驚いて顔をする。
「え?なんであるの!?」
「アニエスが届けてくれた。」
メアは驚いた顔をしていた。
「何そのめちゃくちゃな原理。
いや、あの子ならあり得るかしら…?」
「どうすんだ?連れて行くのか?」
「連れて行っても良いけど…、
本当にやるの?
アンタらは一度敗れてんのよ。」
「ああ、知ってる。だが諦めねぇ。」
「はぁー!?」
「何度だって立ち向かってやる。
アニエスを取り戻す為にな。」 
メアは訳がわからないと言う顔をしていた。
アークライド解決事務所の皆はヴァンと同じ顔をしていた。
「当たり前です!」
「あったり前だろ!」
「後悔だけはしたくない。
…だから足掻くよ。」
「当たり前でしょう!
このままなんて、納得出来ないわよ!」
「ふむ。若人を見守るのも年寄りの役目だからな。…今回も見守らせて貰おう。」
「はぁ…、呆れた…、
何言ってもダメみたいね…。」
「やっと、分かったか。」
「はぁ…、
馬鹿には付ける薬はなさそうね…、あー!
もう!しょうがない!連れて行ってやるわ!」
そう言うとヴァンとメアとオクト=ゲネシスが光り、気が付いたら、別世界にいた。

「ここは…。」
「懐かしいです…。」
「ハッ!戻って来ちまうとはな。」
「相変わらずだな…。」
「ここにアニエス様が…。」
「なら、やる事はひとつよ!」
「取り戻すまでよ。」
全員が覚悟を決めて、目の前の
ヴァグランツ=ザイオンと対峙する。
フェリが何かに気が付く。
「あそこ!」
ヴァンは指が指された方を見ると、
球体が浮いてあり中にはアニエスがいた。
「アニエス…!!」
ヴァンはアニエスに駆け寄ろうとしたが、
ヴァグランツ=ザイオンが許して
くれなかった。
「何故…、何故ココニ入ル?」 
ヴァンは自信ありげに言ってやった。
「ハッ!そんなの決まってんじゃねーか!
思い出したからだよ!全部!」
ヴァグランツ=ザイオンは驚いた。
「有リ得ヌ!有リ得ヌ!記憶ハ全部消シタ!思イ出スコトナド有リ得ナイ!」
ヴァンは真面目な顔をして答えてやった。
「…確かにお前のは、強力だったよ。
けどな…。」
「…?ナニカ有ルノカ?」
「記憶が全部消えるって事はないんだよ!
どんな些細な事でも心に残っている!それを全部消し去る事は出来ねぇ!テメェは、縁をバカにし過ぎたな!ザイオン!」
「…縁ダト?下ラン!
」ヴァグランツ=ザイオンはヴァンを攻撃しようとしたが、アーロンとフェリが
ヴァグランツ=ザイオンの羽に近い場所をコンビネーションで攻撃する。
「ガァァァ!!」 
アーロンとフェリは生意気そうな顔をし、剣と銃をヴァグランツ=ザイオンに向ける。
「縁がなんだって?」
「それに負けている貴方は、
更に下らない事になりますね!」
ヴァグランツ=ザイオンは、アーロンとフェリを殺気がこもった目で見つめ、攻撃を仕掛けようとする。
「貴様ラァァァ!!」
「はぁぁぁ…!!」
「Fio、XEROS今だ!!」
ジュディスが変身した怪盗グリムキャットで満遍なく攻撃し、カトルの導力ドローンで援護射撃をする。
「グゥゥゥ!!」
苦しんだ末にヴァグランツ=ザイオンは自身を守るために敵を召喚する。
「見苦しいわよ!」
「なら、さっさと片をつけないとね。」
そんな2人に加勢しようとしていたヴァンの
ザイファに何かデータが送られて来る。
「これは…。」
「球体の壊すべき場所のデータを
送りました。」
「リゼット、もしかして…。」
リゼットはニッコリと笑った。
「はい、皆様と話し合った結果、
アニエス様は、ヴァン様に救出して貰う事になりました。」
ヴァンは迷った、
「けど、他に適任がいるんじゃー。」
「ヴァンが良いと判断した。」
振り向くと、ベルガルドが優しそうな目で
言った。
「何で…。」
「フッ。理由は簡単よ、
こんな事態になっても私たちはアニエスの全てを思い出せない。だから、全てを思い出したヴァンこそアニエスを救い出すに相応しい、頼めるか?ヴァンよ。」 
こんな事言われて、断れる筈ない。
「…分かりました、アニエスは絶対に救います!」
「頼んだぞ。」
「頼みました。」
2人の横を駆け抜けて、球体の場所に行こうとする。ヴァグランツ=ザイオンは気が付いて攻撃をしてこようとしたが、リゼットたちが許さなかった。
「どこを、見ているのですか?」
「どれ、久々に本気を出すとするかの!」
ヴァグランツ=ザイオンは怒りの咆哮をあげる。
ヴァンは、皆の力を借りてアニエスがいる球体にたどり着いた。ザイファを開いて攻撃箇所を確認する。
「…よし。場所は分かった、今助ける。
待っていろ!アニエス!」
ヴァンは球体を的確に攻撃し、球体が割れてアニエスが出てきた。ヴァンはアニエスを受け止める。
「アニエス!大丈夫か!?」
アニエスは弱々しく笑った。
「大丈夫、です。信じて、いましたから。ヴァンさん、たちが、来るの…。」
ヴァンはアニエスを強く抱きしめていた。
「ヴァンさん…?」
「無事で良かった…!!
オマエの事思い出せなくて、でも大切な人なのは分かっていた!…思い出せて、また逢えて良かった…!!」
アニエスは驚いていたが、ヴァンの背中に手を回した。
「…心配かけてごめんなさい。
ただいま帰りました。」
その後に恥ずかしがってヴァンから逃れようとする。
「あ、あの…、ヴァンさん、抱きしめてくれるのは嬉しいんですが…、恥ずかしいのでそろそろ…。」
「やだ。」
アニエスを自分の方に引き寄せ、更に強く抱きしめる。もう絶対離してやるもんか。
「ッ〜!!」
そんな2人を見ていたアーロンが茶々を入れる。
「お〜い、いちゃつくのは良いが部屋でやってくれ。まずは、ヴァグランツ=ザイオンを倒してからだろ?」
アニエスは慌てて離れる。ヴァンは心の中で舌打ちをし、アーロンに文句を言う。
アーロンめ、余計な事言いやがって…。
ヴァンとアニエスはヴァグランツ=ザイオンに向き合う。
「何故!何故!」
アニエスは強い意志のこもった瞳でヴァグランツ=ザイオンに啖呵を切る。
「…それが分からないなら、一生私たちに勝てません!」
「グゥ…!小娘ェ!!」
ヴァグランツ=ザイオンがアニエスに
襲い掛かろうとするが、ヴァンがアニエスの前に立つ。
「させねぇよ…それに小娘じゃねぇ。」
「ナラ!何ダト言ウノダ!」
ヴァンはアニエスを自分の方に抱き寄せた。「…俺が惚れた自慢の女だ。」
アニエスは恥ずかしそうに、けど嬉しそうな顔をした。ヴァグランツ=ザイオンが怒りのあまり攻撃してくる。
「何ダ!ソノフザケタ解答ハ!」
ヴァンはグレンデルに変身して、
「…大真面目だよ。」
ヴァグランツ=ザイオンのお腹に穴を開けた。ヴァグランツ=ザイオンは咆哮を上げて消滅したが最後に、
「…マタ…チカイ…ウチニ…。」
と言う不審な事を言い、消滅した。ヴァンは、
「…力は、なくならないってことか。」
そう寂しげに呟いた。
そんなヴァンの手をアニエスは握り、
「…大丈夫です。どんな事があっても支えますから。…今度は恋人として。」
ヴァンは嬉しそうに微笑んでアニエスの手を握り返した。
「…ああ、よろしく頼む。」

事件から1週間後、ヴァンは最高に可愛い恋人とある約束をし、駅前で待っていた。ヴァンの姿を見て驚く人もいるだろう。いつもと違い、オシャレな服を着ていたから。何故ヴァンがこんなにオシャレな服を着ているか、何故なら今日はー。
「ヴァンさん、お待たせしました!」
そこにいたのはアニエス。だが服がいつもと違く大人ぽい。ヴァンは驚いて見ていると「ヴァンさん、何か変でしょうか?レン先輩にアドバイスは貰ったのですが…。」
「いや?いつもの服も可愛いが、今日も最高に可愛い。」
「!!あ、ありがとございます…。」
ヴァンとしては大真面目なのだが、周りにいつも少しは制限しろと言われる。今回もやってしまった。仕方ない、アニエスは可愛い。これは事実なのだから。2人の服がいつもと違うには理由があった。今日は2人の初デートの日。だから、2人とも気合いが入っていた。
「…あの、ヴァンさん。」
「なんだ?」
「その服似合っています!」
アニエスからの似合っているは、
一番嬉しい。
「ありがとな、んで今日どこ行きたい?」アニエスは迷った後に 
「それじゃあ、スイーツ巡りで!」
ヴァンは呆れたように、
「オイオイ、それじゃあいつもと変わらないじゃねーか。」
「はい…でも、ヴァンさんが好きな場所を回りたいです。…ダメ、ですか?」そんな事言われて断れる筈ない。
「いいぜ、それじゃあ、ん。」ヴァンは腕を差しだす。
「えっ。」
「せっかく恋人になったんだしな、腕ぐらい組んでもバチは当たらないだろ?」
アニエスは照れながらヴァンと腕を組んだ。「どこのスイーツにする?」
「あ、イチゴケーキが食べたいです!」
「なら、おすすめはだな…。」
2人は腕を仲良しげに組み、スイーツ巡りを始めるのであった。

END

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