何色でもない私に出来る事。

ヴァンの魔王騒ぎの事件が収まったその1ヵ月後に、事件は起きた。
「ヴァンさんがいなくなった…?」
アニエスがその知らせを知ったのは、
ザイファにポーレットから連絡が掛かってきたからである。
(ヴァンさんがいなくなった…?どうして…、今度はもう少し考えるって約束したのに…!)
アニエスはいってもたってもいれなくなってすぐに事件が起きた現場に行きたかった。
「アニエス。」
背後から、スミレ色の髪の毛の少女に話しかけられる。アニエスはよっぽど焦っていたのだろう。いつもなら気が付く先輩に気が付かなかったのだから。
「モンマルトに向かうのね?」
「レン先輩?…どうして…。」
「貴方、自分じゃ気がついてないけど、
顔が真っ白よ?
それに覚悟を決めた顔をしている、
それで気が付かないのは無理よ。」
「そんな顔してましたか…?」
「まあ、盗み聞きしたからなんだけど。」
「レン先輩!」
(本当にこの先輩は…、でも肩の力が抜けたかも。ありがとうございます、レン先輩。)
「レン先輩、お陰で肩の力が抜けました。ありがとうございます。」
「そう、それは良かったわ。」

「「アニエス!!」」
眼鏡を掛けた少年とシュシュで二つ結びした少女が呼び掛ける。
「オデット…、アルベール…。」
きっと2人には止められる、そうアニエスは考えた。それでも行かないといけない。
だから2人にはちゃんと話そうと覚悟を決めて話そうとしたのだが、返ってきたのは予想外の返事だった。
「行くんだな?」
「行くんだね?」
アニエスは止められると思っていた為思わず
「はい?」
という間抜けな声が出てしまった。
「なんだ。その声は!」
「アルベール?そこは察してあげないと!」
「だって…、止められるって…。」
「まぁね〜止めことも考えたよ。
ヴァンさんがいなくなった事は、
それだけ緊急事態で、アニエスに危険が迫る可能性高いし。」
「なら…、何で…。」
「アニエスは言っても止まるヤツじゃない。黒玉鋼の様に頑固な奴だ。こうだと決めたら誰が言っても止まらないだろ?」
「アルベール?黒玉鋼ってどういう事?」
ニッコリと笑うアニエス。
「と、とにかく君は意思が強い頑固者って事だ!そんな奴に何言っても動かないだろ!
なら、その道を見守るのも幼馴染の役目だと思って!クッソ!上手く言葉に出来ないな…。」
「とにかく!どんな道を選んでも私たちは味方だよってこと!」
気がついたらアニエスは泣いていた。
「泣く事ないだろ!?」
「アニエス、ハンカチいる?」
「2人共ありがとう!行ってくる!」
気がついたら最高の笑顔で言っていた。
「まったく…、泣いたり、笑ったり忙しいな…。」
「まぁ、いいじゃん。アニエスは笑顔の方が似合っているよ。」
生徒会を出て行こうとしたら、
レン先輩に、アルベールに、オデットに。
「あの人をお願いね♪」
「まだ、先輩として教わってない事あるし、勝手にいなくなるなとでも言っといてくれ。」
「まだ、生徒会室に案内してないし。戻ってきたらお茶しましょう!って言っといて!」
みんなからお願いされた。
(ヴァンさん、知ってますか…?ヴァンさんを思う人がこんなにいるって事に…。)

「ポーレットさん!」
店の前でポーレットが待ってくれていたので、声をかけた。
何故店の前にポーレットがいるかというと、アニエスが事前に行く事をザイファで連絡したからである。
アニエスは息を整えつつポーレットに聞く。
「ポーレットさん、ヴァンさをがいなくなったって…、何があったんですか?」
ポーレットは悲しそうな顔で語り始めた。
「よく来てくれたわね…アニエスちゃん…、ちょっと受け止められなくて…。」
「ポーレットさん…、私もです…。」
「いなくなる前の日まで普通に過ごしていたわ…、ユメとも過剰なぐらい遊んでくれて…今考えると変だったわね…、そして今日の朝、いつも起きてくる時間に来なかったから変って思って…、部屋を覗いたらもぬけの空になっていたの…。」
「そんな…。」
「それでね、アニエスちゃんに連絡したのは理由があって…。」
「理由ですか?」
アニエスはポーレットから手紙を渡される。よく見ると「アニエスへ  ヴァン・アークライド」と書かれてあり、アニエスは気が付いたらポーレットに食い付く様に話を聞いていた。
「これ!ヴァンさんの字です!何が!」
あまりにも食い付き過ぎた事に気が付き慌ててポーレットに謝った。
「すいません!ポーレットさん!」
「いいのよ。謝らなくて。
これはね、ヴァンさんの部屋の机の上に置いてあったの。だから、これはアニエスさんに渡さないといけないと思って。」
ポーレットはアニエスが食いつき過ぎた事も責めずに情報を渡してくれた。途端にアニエスは自分が恥ずかしくなった。
(1番辛いのはモンマルトの皆さんなのに!自分の気持ちばかり…!)
アニエスはよほど後悔している顔をしていたのかポーレットにお礼を言われた。
「アニエスちゃん、好きな人がいなくて焦るのは当たり前よ。でも、私の気持ちも考えてくれてありがとう。」
こんな事を言われたら何も言えない。
(私もまだまだだなぁ…。)
ポーレットにヴァンの部屋を見ていいと言われ、見ることにした。部屋に行ったら驚いた。前まであった物が消えていたからである。
(ヴァンさん、最初から消えるつもりだったんですか…、ひどいです…。)
そんな事を思っていたら、扉が凄い音がして開いた。一瞬、ヴァンかと思って
「ヴァンさ…。」と言いかけたが、現実はいつだって寒くて残酷だ。
そこにはヴァンはいない。
いたのはポーレットの愛娘だった。
「アニエスちゃん…?ヴァンは…。」
「ユメちゃん…ヴァンさんは..。」
思わず俯いてしまう。
「ヴァン、やくそくしたもん!また、あそんでくれるって!かってにどこにもいかないって!うそつき!うそつき!」
いつもは満面の笑みで皆を虜にしてしまう少女はいない。そこにいるのは、大好きな兄に置いて行かれて悲しみにかくれる少女である。そんな姿を見て、アニエスは気がついたらユメを抱きしめていた。
「全く。ヴァンさん、駄目でしょ!ユメちゃんをこんなに泣かせたら!」
「アニエスちゃん…?」
「ユメちゃん、安心してください。ヴァンさんを見つけて駄々をこねるようでも、引っ張って帰りますから。」
「ほんとうに?ヴァンをつれてかえってきてくれるの?」
「もちろん!」
「ありがとう!アニエスちゃん!」
その後はユメをポーレットに預けた。ポーレットにお礼を言われたが、自分としては当然な事をしたのでお礼を言われるまでもない。

(ヴァンさん、私なんだかんだ甘えていました。もう逃しませんから!)
覚悟を決めて手紙を読む。
「アニエスへ この手紙を読んでいるって事は、俺はもういないだろ。
お前は怒っていると思う。最近、魔王の力が強まって来ているのを感じて、このままじゃ世界を滅ぼすと思った。
あんだけの事があっても俺の本質は変わらんみたいだ。皆に謝っておいてくれ。 
PS.約束守れなくてスマン。 ヴァン・アークライド。」
手紙を読み終わったアニエスは怒っていた。気がついたら、事務所のメンバーに連絡した。全員来てくれるという確信があった。事務所のメンバーの反応は様々だったが、皆怒っていて全員一致の「よし。殴ろう。」なのは笑ってしまった。
「全員すぐ来るのは無理では?」
と考えていたが、
「うむ。奥の手があるさ。」
渋い声の男性が悪い声で言う。
(どんな手くる気だろう…?)
それから1時間後、事務所メンバーが全員集合したのは、さすがに驚いた。
「どんな、手を使って?…」
「知り合いの、メルカバを使わせて貰ったわ。」
「知り合い?」
「初めまして。ガイウス・ウォーゼルだ。師父の弟子が何やらやらかしたらしい、という話聞いて、友人を思い出してな。こうして力を貸した次第だ。」
「初めまして。アニエス・クローデルです。そのご友人は抱え込みやすい方ですか…?」
何となくアニエスが聞いたら
苦笑いしながら、
「そうなんだ。もっと頼って欲しいんだが、すぐ抱え込むからな。だから、今回の話を聞いて力になりたいと思ったのかもしれない。」
「ガイウスさん…。」
(何て良い人なんだろ…)
「師父、自分は巡回に戻りますので、これで。力になりたい所ですが、これ以上の介入は…。」
悔しそうな顔でいるガイウス。
そんなガイウスにベルガルドは、優しく微笑んだ。
「何。ここまで全員を送ってくれただけでも、感謝してるぞ。」
「師父…、ありがとうございます。
皆、頑張ってくれ。大事なものを取り戻せる事を心から祈っている。
風と女神の導きをー。」
ガイウスはメルカバに乗り込んで消えていった。
「速いなー!俺ら、アレに乗っていたのかよ!」
そう横で騒ぐのはテンションの高い赤髪の青年だった。
「アーロンさんのせいで見送る事ができませんでした!邪魔なので、どいて下さい!」
短髪の褐色の少女がそう言った。
「ヤベ!小さ過ぎて、見えなかったわ!」
「アーロンさん!やりますか!?」
「2人共そこまでで。そろそろ決めませんか?」
凛とした冷静な声が響く。
その声に2人とも、
「チッ!」
「勝負は、お預けですね!」
そんな2人をみてサイドテールの女性が、
「相変わらず賑やかね…。」
そんな事を言うサイドテールの女性に対して
中性的な短パンの少年が、
「貴方に言われたくない、と思うんだけど…。まあ…解決事務所らしいか…。」
とツッコミを入れる。
「騒がしいって何よ!」
「誰も言ってないけど…。」
そんな事務所メンバーをみて、いつも通りのをみてアニエスは嬉しくなってしまった。
(あぁ…還ってきたんだなぁ…。
ヴァンさん…、後は貴方だけです…!絶対に逃しませんから…!)

アークライド解決事務所に集まったは良いが、どこにいるかは検討がつかない。
以前は屋上や心を残している場所というヒントがあったが、今回はない。頬に手を当てて、困ったポーズをしながらリゼットは
「困りましたね。」
と言った。そんな姿を見て、アニエスは困っているように見えないと思い、
「リゼットさん、
全然焦ってないですよね...。」
「だって、全員集まってますから。
不可能はないでしょう?」
その言葉に全員が頷く。
「当たり前だろ!勝手な事をした分の落とし前は、付けて貰うがな!」
「同意見です!まだまだ、教えて欲しい事ありますし!」
「ま、当たり前ね。ていうか、ユメちゃんを泣かせた罪は重いわよ!」
「同意見。あんだけ人の心に土足で踏み込んで、置いて逃げられるとか、都合良すぎない?」
「また、あやつは人の縁を甘くみたな。これも奴の業よ。」
(ヴァンさん…、貴方はこんなにも大事思われているんです…、まだ足りないって言うなら、何度でもぶつけます…!私の…私達の思いを…!)
その瞬間ポシェットに入っていたゲネシスが光り始めた。
(何で…、ゲネシスが…。)
ゲネシスが光っている事に驚いていると、アーロンが呟いた。
「なぁ…。前もゲネシスが、強く光った時あったよな?もしかして、お前の思いに共鳴している可能性があるんじゃねぇか?」
そんなアーロンの言葉に、アニエスはヴァンの元に行ける可能性を考えた。
アニエスはヴァンの事を強く思う。
(ヴァンさん、貴方に逢いたい…!お願い…!ヴァンさんの元に連れて行って…!)
そう強く願ったら、光はより強くなり人とは少し違う姿をした少女が出てきた。
「メアちゃん!」
「ふぁぁ…もう!せっかく気持ち良く寝ていたのに!」
「ヴァンさんが、いなくなったんです!メアちゃんなら居場所を知っているはず!お願いします!教えて下さい!」
「…あいつは1人で死ぬつもりで、閉じこもったんだけど。世界の為なら、放って置いても良いと思わない…?」
そんな言葉に対してアニエスは力のこもった声で言う。
「…いいえ。そんなはずありません!
ヴァンさんが、自分事を放って置いて欲しいって言っても嫌です!だって、ヴァンさんが世界にいないってだけで身体中にナイフを刺されたみたいに痛かった!ヴァンさんは私の事どう思っているか分からないけど、私にとっては絶対に失いたくない人です!それに私だけじゃない!レン先輩、オデット、アルベール、モンマルトの皆さん、事務所の皆さん、それ以外にも、ヴァンさんを待っている人は沢山いるんです!だから!1人で死ぬなんて許さないし、世界ために放って置くなんて事は、絶対ないです!」
いつもは飄々としていて、怖気付くなんて事はないのだが、今回はメアは完璧に怖気付いていた。
「あー!もう!何なの!この女!」
そして気がついたら、逆ギレしていた。
「いやー!熱い告白聞かせてもらったぜ!」
アーロンはアニエスを茶化したが、アニエスは天然な所があるので、分からないと言う風に答えた。
「え。告白のつもりなかったんですが…。」
「マジかよ…、コイツ…。」
「あー!負け!負けたから、ヴァンの元に連れていってあげる!」
「ありがとうございます!メアちゃん!
でも、なんでキレているんですか…?」
「誰のせいだと!思ってんのよ!」
メアとゲネシスが強く光ったと思ったら、以前魔王と戦った場所にいた。
「ここは…。」
「ま、そういう事よね。」
「あいつ、魔王の力が抑えられないって分かった途端に此処に還るって決めたみたい。
ここで孤独死するつもりでね。」
「…!!」
「勝手すぎだろ…。」
「ひどいです…。」
「契約違反です。」
「何なのよ…。」
「身勝手だよ…、本当に…。」
「馬鹿弟子が…。」
そんな時に声が聞こえてきた。
懐かしい声だ。
アニエスが聞き間違えるはずがない。
気が付いたら走り出していた。
「ヴァンさん!!」
「アニエス…、何で。」
人の声がしたが、それは人呼べない何かだった。人によっては嫌悪感を剥き出しにするかもしれない。だが、アニエスはそんな異形なものを見つめて笑った。
「良かった…、ヴァンさん…、また会えて…。」
そんな姿にヴァンは胸が苦しくなって、
「何で…、来たんだよ…、アニエスだけじゃない…わオメェらも…。」
「勝手に逃げられるとでも思ったか?ハッ!甘ぇ!」
「ヴァンさんには、教えて欲しい事がまだ沢山あるので!」
「契約違反なので。」
「色々あるけど…、その甘ちゃんな精神を鍛え直すためよ!」
「相変わらず、自分勝手なんだから。
いい加減にしなよ!」
「馬鹿な弟子を止めるのも師匠の務め。
覚悟を決めよ。ヴァン!」
(何で…、揃いも揃って馬鹿ばっかなんだ…俺なんかには、勿体ないぐらいだ…。)
「ヴァンさん。」
アニエスの声にビックッとする。
アニエスの顔を見るのが怖い。
だから気が付いたら、下を見ていた。
(俺は、アニエスの真っ直ぐな目が好きだ。あの目を見ていると、こんな自分でもいいんだって気がするから。でも、今は怖い。あの真っ直ぐな目で見つめられて、全てを否定されたら?自分を保てる自信がない。
だから、すまない。アニエス。
お前の目は見れない。)
「ヴァンさん、どうして目を見てくれないですか?」 
(怖い。アニエスに否定されたくない。)
「どうだっていいだろ、目を見なくても話せる。」
(…本当にこの人は、臆病で怖がりででも優しい人。)
「ヴァンさん、目を見て話しましょう?」
(やめろ。そんな事をしたら自分が壊れてしまう。)
アニエスはヴァンそばにより顔を自分の目に合う様にした。
「ッッ!」
アニエスの目が、自分の顔を見つめた事により動揺する。暴れてみるが、アニエスが離してくれない。
「ヴァンさん、やっぱり優しいですね。」
「はぁ?どこがだよ!」
「ヴァンさん、今凄く暴れたのに私は、かすり傷ひとつもありませんでした。嫌で離れようとしたけど、傷を付けない様に暴れとくれたでしょう?それって凄い優しくないと出来ないと思うんです。」
「なんだよ…、それ…、ていうか、見てないで、オメェらも止めろ!」
愚痴を言うヴァンに対してアーロンは、
「だって、オメェらのこと信じてたし。」
周りを見たら、全員信じてると言う顔をしていた。
(信じてるって、俺を?ネタじゃ無くて…、冗談だろ…、いや…、こういう奴らだったな…、諦めが悪くて、俺を信じてる…、俺が信じきれてないだけで…。)
「ヴァンさん、分かりましたか?」
「何がだよ…。」
「諦めが悪くて、ヴァンさんを信じてる人が、こんなにもいるって事に…。」
「嫌というほど身に染みたよ…、でも、怖いんだ…、魔王の力が暴走して、大事なもの全部壊したらって…、だから、もし、世界か俺かってなったら、世界を…。」
「…ヴァンさん。
私は、ヴァンさんの様な巨大な力も宿ってないので簡単に大丈夫、なんて言えません。
世界かヴァンさんを選ばなきゃいけなくなったら、世界を選んだ方がいいのかもしれません。でも、断ります。何色にも染まっていない自分だから出来る選択肢ってあると思うんです。」
「それは…?」
「…ヴァンさん、知ってます?私って欲張りなんです。だから、ヴァンさんも救って世界も救います。」
あまりにも欲張り過ぎる選択に、
「欲張りすぎたわ…。でも、お前ならやって退けそうだな。」
「もちろん。やって退けます。
1人は無理でも、沢山の人の力を借りて。ヴァンから教えてもらったんですよ。」
そう言って彼女は微笑んで、そんな彼女に見惚れている自分に気が付いた。
(まいったな…。)
アニエスに惚れている事は、多少自覚していたがここまで惚れていたとは。
「ヴァンさん?」
アニエスが声を掛けてくる。
それで我に返って。
「あ、ああ。アニエス達が諦めが悪いのは分かった。ここに閉じこまるのはやめた。」
「じゃあ…!」
「ああ。還ろう。俺たちの世界に。」
ヴァンがそう言った途端に異世界から見慣れたアークライド解決事務所に皆で生還していた。

その後の話だが、ヴァンは散々色々な人に怒られた。
その詫びとして、ヴァンは依頼を無料で受けるのであった。ヴァンが詫びの依頼を受け終わった帰り道、モンマルト前に見慣れた制服姿の少女がいた。
ヴァンは声をかけようか一瞬迷ったが、ちょっとでも彼女と一緒にいたいという欲望に逆らえず声をかけた。
「よお...、アニエス。こんな所で何をしてんだ。」
「ヴァンさん!お仕事、お疲れ様です。」
満面の笑みで言われる。
(…やめてほしい…、アニエスにベタ惚れなのを自覚してから、そういう顔されると…、心臓がもたん…!というか、いい歳した奴がこの反応はどうなんだ…?)
この前、アーロンにその話をして大笑いされたばかりであり、アーロンにはもうしないと誓ったばっかりである。
「まあ、タダ働きだけどな。」
「それは、ヴァンさんが悪いのでしっかり働いてもらわないと。」
「ぐっ!正論言いやがる…!!で?無駄話しに来た訳じゃあ、ないだろう?」
アニエスが持っている紙袋が気になった。
「何を持っていると思います?当ててみて下さい。」
ヴァンは考える。紙袋から漂ってくる微かな匂いから分かった。
「お菓子だな。」
「正解です。じゃあ何のお菓子だと思います?」
匂いから推測する。イチゴとクリームの匂い、間違いない、自分が間違えるはずない。
「フッ。アニエス、俺を舐めすぎなんじゃあないか?答えは明白!ショートケーキだ!」
「正解です。最近頑張っているヴァンさんに、差し入れです。」
「いやー!助かるな!丁度甘いもの欲しかったんだよな。一緒に食べようぜ。」
「はい!」

アニエスが色々準備してくれた。自分が準備するつもりだったのだが、
「ヴァンさんは、座って待っていて下さい。すぐに準備しますから。」
なんて押しきられて、現在に至る。
「お待たせしました。」
「悪いな。色々準備させちまって。」
「いえ!好きなので!
ヴァンさんは、気にしないで下さい。」
そうは言われても、全部準備して貰って自分は何もしないというのは気になる。
「さあ、頂きましょう。」
「そうだな。」
「「頂きます。」」
(なんだ…、このショートケーキ凄い美味いぞ!クリームはきめ細やかだし、イチゴは丁度いいぐらいの量だ。でも、おかしいな…、こんな美味しいなら、俺は知っているはず…でも、最近忙しかったし、知らない可能性もあるな。何処で買ったかアニエスに聞いてみるか。)
「アニエス、このショートケーキどこで買ったんだ?」
何となく聞いたのだがアニエスの様子がおかしい。
「あの…、もしかして…、味が変だったとか…。」
それで察した。
このショートケーキはアニエスの手作りだと。
(ヤバい。俺、変な顔してないか?)
めちゃくちゃ惚れている少女の手作りケーキを食べれたのである。嬉しくないはずがない。あまりにもヴァンが黙っているのでアニエスはどんどん不安になっていく。そんなアニエスの不安をかき消す様にヴァンが、
「こんなに上手いショートケーキ、初めて食べた。…毎日食べたいくらいだ。」
「ヴ…ヴァンさん…。」
あまりにも嬉しい事を言ってくれてアニエスの顔がどんどん赤くなっていく。そんなアニエスの様子を見ながら、
(クッソ、可愛いな。オイ!今すぐ抱きしめたいけど、そんな事したら犯罪だ。
落ち着け、俺。)
といったように悶々としたヴァンがいた。そんな時にヴァンにアニエスは声をかける。
「ヴァンさん。」
「はい!?」
「どうしましたか?」
「何でもないから、大丈夫だ。アニエス、どうかしたか?」
アニエスは遠い昔の様に話はじめる。
「あの事件から、まだ1週間も経ってないんですね。」
「あの時は、スマン。」
「もういいですよ、逃げても捕まえるだけですから。」
「相変わらずだな、あの時と決意は変わってないか?今ならまだ…。」
「変わっていません。私はヴァンさんも救って、世界も救います。」
「ボロボロになるかもしれないぜ?」
「そうかも知れません。その時は、私がヴァンさんを救った様に、ヴァンさんも私を助けて下さいね?」
気が付いたらヴァンは口からそんな言葉が出ていた。
「ああ、絶対に助ける。他は嘘ばっかりだけど、これだけは信じて欲しい。」
「信じます、私は何があっても、ヴァンさんを信じてますから。」
「信頼が重いな。」
「そういうものですから。」
全く自分はとんでもない少女に惚れた様だ。
「あっ!色々あってキチンと言えてなかったので!」
「?」
「ヴァンさん、お帰りなさい!」
アニエスの満面の笑みで心の隙間が埋まっていく気がした。
「ああ…。アニエス、ただいま。」
2人が恋人となり夫婦になるのはまだ先の話。

END

色彩

2次創作置き場です。

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